近藤 格
国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野 分野長
年間発生数が「人口10万人あたり6例未満」のがんを、「希少がん」としている。「希少がん」という名称とは裏腹に、希少がんは希少ではない。200種類ものがんが希少がんに分類されるため、ヨーロッパで新規に診断されるがんの22 %、本邦では15 %が希少がんである。すなわち、いろいろな希少がんの患者を合計すると、どのがんの患者よりも多いことになる。「希少がん研究」というと重箱の隅をつつくようなマイナーな研究だと思われるかもしれないが、実はそうではない。「希少がん研究」は、対象とする症例数がどのがんの研究よりも多い、壮大な研究なのである。ただし、個々の希少ながんについては、年間発生数が「人口10万人あたり6例未満」であり、希少ながんのそれぞれの研究はマイナーである。
希少がん研究ではどのようなテーマに取り組むべきなのだろうか。「希少がんはなせ希少なのか」という研究テーマが興味深く、臨床的にも重要である。一部の肉腫や白血病のように特定の融合遺伝子の発生が独立した疾患を導くような場合、原因となるごく少数の遺伝子に変異が発生する確率はきわめて少ないのでそのがんの発生数は少なく、希少ながんとなる。そのようながんは、原因となる少数の遺伝子の異常が鑑別診断のよいバイオマーカーになるかもしれない。ある医学研究が成功するとは、特定の疾患においてほとんどの症例に有効な診断法や治療法が確立されることだろう。原因となる異常がごく限られているから希少になっているがんは分子背景が均一だと推測されるので、特定の希少がんに限ってはその大部分の患者さんに有効な治療法を開発しやすいかもしれない。この話は分子背景が複雑でいろいろな抗がん剤が開発されている肺がんを対比させるとわかりやすいだろう。また、発生母地となる正常細胞が発がんに抵抗性を示したり数としてきわめて少なかったりする場合、そこから発生するがんは希少がんになりうる。特定の発がん物質が原因となるがんの場合、その発がん物質の存在が希な環境では希少がんになるだろう。そのような希少がんは原因の特定が予防につながるかもしれない。もっとも、成り立ちがわからない希少がんがほとんどであり、「希少がんはなぜ希少なのか」という問いに対する答えは希少ながんの数だけ存在しうるだろう。このように、がんの多様性の問題を背景として「希少がんはなぜ希少なのか」という研究テーマは興味深い。
希少がんは症例数が少ないので、臨床試験や臨床検体を用いた基礎研究はとりわけ困難である。この問題はあらゆる希少がんに共通である。全国から臨床検体をあつめてバンク化するというのが一つの解決法だが、収集できる希少がんの臨床検体はきわめて限られているので、研究が盛んになればバイオバンクはすぐに枯渇してしまう。したがって、希少がんの臨床検体の問題はバイオバンクだけでは克服しがたい。しかしここで視点を変えてみると、我々が必要とするのは臨床検体そのものではなく、臨床検体から得られる情報である。ゲノム、トランクスリプトーム、プロテオーム、メタポロームといったオミクス情報を査出し多くの研究者が有効に活用できるデータベースを構築することで、「臨床検体の数が限られている」 という希少がん特有の問題にアプローチすることができる。臨床検体から樹立するpatient-derived cancer modelも増やして配布することが可能である。patient-derived cancer modelは、新しい抗がん剤の開発において重要である。固体レベルの治療奏効性を患者由来のゼノグラフトや細胞株の薬剤応答性で予測することができれば、希少がんの治療法はすばらしく発展するだろう。臨床検体を前向きに収集してバイオバンクに蓄積しつつ、一方で「有限の試料を無限の試料に変換する」ことで希少がん研究を促進できる。現在のところ公的な細胞バンクから入手できる希少がんの細胞株は限られており、患者由来の腫瘍組織を用いたゼノグラフトは入手しがたい。我々は、2014年より「希少がん研究分野」を立ち上げた。患者由来肉腫モデルとして、現在までに200症例近い肉腫患者の手術検体からゼノグラフトや細胞株の樹立を試み、ゼノグラフト40株、細胞30株を樹立した。CIC-DUX4肉腫という、肉腫の中でもさらに希少な肉腫については、手術検体由来のものとして世界で初めてのゼノグラフト株・細胞株を樹立することに成功した。患者由来肉腫モデルを樹立するつど既存の抗がん剤のライブラリーをスクリーニングし、肉腫に適応拡大可能な抗がん剤を見つけようとしている。
希少がん研究という、研究の単位としては今までになかった視点から、我々の研究があってよかったと、いつの日か患者さんに思っていただけるような研究成果を目指したいと考えている。
【学会賞など】
2010年 児玉賞・日本電気泳動学会
2009年 田宮記念賞・公益財団法人がん究振興財団
2007年 日本癌学会奨励賞・日本癌学会
2004年 Young Investigator Award・Human Proteome Organization
【文献】
1)Oyama R et al. Generation of novel patient-derived CIC-DUX4 sarcoma xenografts and cell lines. Sci Rep. inpress世界初の患者由来CIC-DUX4肉腫モデルの樹立
2) Kubota D et al. miR-125b and miR-100 Are Predictive Biomarkers of Response to Induction Chemotherapy in Osteosarcoma. Sarcoma. 2016;2016: 1390571.特許出願
3)Kikuta K et al. Clinical proteomics identified ATP-dependent RNA helicase DDX39 as a novel biomarker to predict poor prognosis of patients with gastrointestinal stromal tumor. J Proteomics. 2012 Feb 2;75(4): 1089-98.特許取得
4)Suehara Y et al. Secernin - 1 as a novel prognostic biomarker candidate of synovial sarcoma revealed by proteomics. J Proteomics. 2011 May 16;74(6): 829-42.特許取得
5)Suehara Y et al. Pfetin as a prognostic biomarker of gastrointestinal stromal tumors revealed by proteomics. Clin Cancer Res. 2008 Mar 15; 14(6): 1707-17.特許取得
6)Okano T et al. Proteomic signature corresponding to the response to gefitinib (Iressa, ZD 1839), an epidermal growth factor receptor tyrosine kinase Inhibitor in lung adenocarcinoma. Clin Cancer Res. 2007 Feb 1; 13 (3):799-805.日本癌学会奨励賞
7)Kondo T, Hirohashi S. Application of highly sensitive fluorescent dyes (CyDye DIGE Fluor saturation dyes) to laser microdissection and two-dimensional difference gel electrophoresis (2D-DIGE) for cancer proteomics. Nat Protoc.2006;1(6):2940-56. 「DIGE道場」
近藤 格
国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野 分野長
1992年に岡山大学医学部を卒業し、基礎研究を始める。大学院時代の研究テーマは「ヒト細胞の老化、不死化、がん化の分子機構の解明」。二次元電気泳動法を用いてタンパク質の網羅的発現解析 (今でいうプロテオーム解析)をひたすら行う。1996年博士号取得。岡山大学助手、ミシガン大学小児血液腫瘍学部門・博士研究員を経て、2001年より(旧)国立がんセンターにてプロテオーム解析を始める。蛍光二次元電気泳動法を用いて腫瘍組織のプロテオーム解析を行い、さまざまな悪性腫瘍でバイオマーカーを開発する。その間、腫瘍プロテオミクスプロジェクト・メンバー、プロテオーム・バイオインフォマティクス・プロジェクト・リーダー、創薬プロテオミクス研究分野・分野長を務める。その後、希少がんの研究に軸を移し、希少がんの研究基盤の構築、個別的な希少がんの研究、希少がんからのリバース・イノベーションを掲げ、2014年に希少がん研究分野を立ち上げて現在に至る。肉腫の patient-derived cancer modelの体系的な作製を始めてから3年が過ぎ、世の中の流れが自分に追い付いてきた感がある。我々の研究があってよかったと、いつの日か患者さんに思っていただけるような研究成果を目指している。
中 紀文
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(整形外科学)講師
骨・軟部肉腫は骨、筋肉、脂肪などの間葉系細胞に由来する悪性腫瘍で、全身各所に発生し、手術治療以外には有効な治療法が乏しい疾患群である。他のがん種に比べて発症頻度は低く発症年齢が若年で、罹患患者の約2分の1は遠隔(肺)転移を生じ不幸な転帰にいたる希少難治性疾患の一つである。滑膜肉腫やユーイング肉腫など、疾患特異的な染色体転座を有し転座に起因する融合遺伝子が各々のがん化過程に深く関与すると考えられる染色体転座関連肉腫と、骨肉腫や平滑筋肉腫など、複雑な核型を有する転座非関連肉腫に大別される。骨・軟部肉腫全体を考えた場合も、その希少性ゆえに研究材料となる肉腫培養細胞株や疾患動物モデルが十分に供給されておらず難治性の肉腫の病態を解明し新たな治療法を開発するために複数の解析ツールの整備が喫緊の課題となっている。
我々は、大阪大学整形外科骨・軟部腫瘍研究チームの豊富な肉腫治療症例数を背景に、滑膜肉腫、ユーイング肉腫、淡明細胞肉腫などの染色体転座関連肉腫に加え、類上皮肉腫、骨肉腫などの転座非関連肉腫の新たな細胞株樹立に成功している。さらに、肉腫細胞株パネルの構築作業と並行して肉腫の生物学的機能解析、新たな分子標的治療法の開発研究に取り組んでいる。本肉腫細胞株パネルは肉腫の臨床現場に立つ者が作製するものであり、一般の整形外科医が修練の過程で叩き込まれる清潔操作以外に特殊な技術を必要とせず、通常の研究環境でin vitroからin vivoへ連続する実験を可能にするバイオリソースである。本講演では、培養肉腫細胞株および動物実験モデルの樹立/作成過程と構築中の肉腫細胞株パネルを用いた基礎研究の一端を紹介する。
【主要論文6編】
1)Yamada S, Imura Y, Nakai T, Kaneko K, Outani H, Takenaka S, Hamada K, Myoui A, Araki N, Ueda T, Itoh K, Yoshikawa H, Naka N. Therapeutic potential of TAS-115 via c-MET and PDGFRa signal inhibition for Synovial Sarcoma. BMC Cancer. 2017; in press.
2)Imura Y, Nakai T, Yamada S, Outani H, Takenaka S, Hamada K, Araki N, Itoh K, Yoshikawa H, Naka
N. Functional and therapeutic relevance of hepatocyte growth factor/c-MET signaling in synovial sarcoma. Cancer Sci. 2016; 107: 1867-1876.
3)Imura Y, Yasui H, Outani H, Wakamatsu T, Hamada K, Nakai T, Yamada S, Myoui A, Araki N, Ueda T, Itoh K, Yoshikawa H, Naka N. Combined targeting of mTOR and c-MET signaling pathways for effective management of epithelioid sarcoma. Mol Cancer. 2014 13:185.
4)Outani H, Tanaka T, Wakamatsu T, Imura Y, Hamada K, Araki N, Itoh K, Yoshikawa H, Naka N. Establishment of a novel clear cell sarcoma cell line (Hewga-CCS), and investigation of the antitumor effects of pazopanib on Hewga-CCS. BMC Cancer. 2014 19; 14: 455.
5)Yasui H, Naka N, Imura Y, Outani H, Kaneko K, Hamada KI, Sasagawa S, Araki N, Ueda T, Itoh K,
Myoui A, Yoshikawa H. Tailored Therapeutic Strategies for Synovial Sarcoma: Receptor Tyrosine Kinase Pathway Analyses Predict Sensitivity to the mTOR Inhibitor RAD001. Cancer Lett. 2014; 347: 114-122.
6)Naka N Takenaka S, Araki N, Miwa T, Hashimoto N, Yoshioka K, Joyama S, Hamada K, Tsukamoto Y, Tomita Y, Ueda T, Yoshikawa H, Itoh K. Synovial sarcoma is a stem cell malignancy. Stem Cells 2010; 28: 1119-1131.
中 紀文
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(整形外科学)講師
昭和63年大阪大学医学部を卒業し、大阪大学整形外科に入局。関連施設で整形外科一般研修を受けた後、平成5年大阪大学医学部大学院(病理病態学)に入学、血管肉腫の研究に取り組んだ。平成12年より我が国有数のsarcoma high volume centerである大阪府立成人病センター整形外科に異動、肉腫の診断・治療に本格的に従事した。ある日手術に明け暮れる毎日に小さな疑問をもち、手術以外に画期的な治療法が出来ないものかと考え、附設研究所で患者検体を用いた基礎研究を開始した。肉腫の診療とマウスの飼育に心血を注いでいたが、平成23年大阪大学整形外科に異動となり、以降は肉腫の診療と大学院生の研究指導に全力を傾けている。
[資格]日本整形外科学会専門医、がん治療認定医・指導医、Best Doctors in Japan 2016-2017
濱田 哲暢
国立がん研究センター研究所 分子薬理研究分野長
国立がん研究センター研究所 薬効試験部門長
希少がん治療方法の開発において薬物治療の発展が不可欠と言える。既存の薬剤の適応拡大を企図して薬剤の組み合わせ、新規医薬品の創薬開発が行われている。薬物動態学・臨床薬理学の専門家として、新薬開発における非臨床ならびに臨床における薬物動態の役割について解説しPDXを用いた薬効薬理試験への応用に関して当分野で取り組んでいる薬物イメージングについて概説する。
医薬品開発のコストが上昇し続けていることから、新薬候補化合物を早期に医薬品としての可能性を見極めることが重要である。開発初期段階から医薬品候補を絞り込み、「Go」or「No Go」を決定する指標の開発が急務である。抗がん薬の分野では分子標的治療薬が開発の主流であり、開発コンセプトの一つである標的分子への作用評価は、Proof of concept(POC)として作業仮説からスタートした創薬研究プロセス過程における大きなマイルストンである。POCを得ることは、新薬候補化合物の有効性と安全性を早期に確認・実証し、創薬研究開発における成功率を高める。そのため、直接的な薬理作用であるシグナル伝達関連遺伝子あるいは標的タンパク質のモニタリングが幅広く行われている。
抗がん薬の創薬研究において薬物動態について私見を述べる。薬物動態試験とは、第I相臨床試験において動物実験からヒトへ繋ぐ研究はマイルストン研究の一つであり、開発候補化合物のヒトへの最初の適用である。薬物動態試験項目であるPK/PD解析は、医薬品開発プロセスの基礎と臨床のデスパレーを繋ぐ橋渡しに重要な役目を持つ。毒性が強い抗がん薬において、薬物血中濃度と薬力学作用との相関解析、有効性・安全性が期待される濃度の推定(目標薬物濃度)、薬物代謝あるいは薬物輸送タンパク同定など臨床薬理のデータは、創薬開発に大きなインパクトを与える。開発初期からPK/PD解析は重要な位置を示しており、動物からヒトへ繋ぐ重要な解析の一つである。薬物動態パラメータの指標として、クリアランス(CL)、最高血中濃度(Cmax)、定常状態血中濃度(Css)、薬物血中濃度・時間曲線下面積 (AUC)などが選択される。薬力学作用の指標は、奏効率・薬物有害作用を指標するものが多く、薬物有害作用は、致死的副作用回避するためにも重要である。しかしながら、多くの固形腫瘍において腫瘍縮小効果などが薬物血中濃度の相関が認められない場合があり、腫瘍組織における薬物分布の詳細な解析が求められる。標的組織における薬物分布解析は、標的受容体に結合する分子標的薬のコンセプトを検証するPOCになることが期待されるため、標的部位の薬物動態可視化として薬物イメージング手法が検討されている。
腫瘍組織への薬剤デリバリーの低下は、治療効果の低下に繋がる。一般に、薬理効果は腫瘍への薬剤送達と相関するが、腫瘍細胞間質組織の生理的・構造的要因、腫瘍細胞における薬物代謝・解毒・薬物輸送タンパク、化合物の物理化学的性質、腫瘍血管の透過性の変化・毛細血管構造異常が影響すると考えられる。しかしながら、これまで多くの薬剤感受性・抵抗性の研究では、標的腫瘍の遺伝子変異解析、タンパク発現解析などが主流であるため、上述した変化を予測するのが困難であるため、詳細な解明のため、細胞レベルでの薬剤分布の空間情報に影響を与えずに評価することが求められる。薬物可視化の手法である分子イメージング技術は、生体を非侵襲的に観察できるin vivo生体イメージングである、positron emission tomography(PET), microdialysis(MD)、magnetic resonance spectrometry Imaging(MRl)、および、侵襲的であるが詳細な解析を可能とするin vitro分子イメージングであるwhole-body autoradiography(WBA)、 micro autoradiography(MARG)、imaging mass spectrometry(lMS)、fluorescence microscopy(FM)に分けることができる。イメージング手法には一長一短があるため、複数の解析手法を組み込に解析することが望ましい。従来薬物動態解析で汎用されてきた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)あるいは液体クロマトグラフータンデム型質量分析(LC-MS/MS)を用いて、血中薬物濃度ならびに腫瘍組織濃度を測定し分子イメージングで得られた結果を検証することが望ましい。しかしながら、腫瘍組織は、heterogeneityの特性を有することから、組織の一部を採取しホモジナイズされた平均化された組織中の平均薬物血中濃度は組織の正確な薬剤分布MSを解析することは不可能である。
分子標的薬の薬剤開発において、標的細胞に対する薬剤局在を解析することが理想的である。演者のグループでは、質量分析イメージング(mass spectrometry Imaging)を用いた組織レベルでの薬物動態解析の応用開発を進めている。本法は、対象薬物のラベル化が不要であり、未変化体だけでなく代謝物の生体内分布を解析することが可能であるため、一般臨床で用いられる薬物をそのまま可視化するため応用の幅が大きい。近年、質量分析イメージングを用いた解析方向が散見されており、抗がん薬パクリタキセルを製剤学的工夫であるミセル化により腫瘍内取込の増大現象の可視化が報告されている。
2次元で得られる画像上の薬物濃度を示すシグナル強度が定量性を持つか否かは、基礎研究だけでなく臨床研究への応用においても確認すべき事項である。質量分析イメージングを含む可視化手法において議論となるのは、得られた画像が示す定量の信頼性である。そのため、複数の切片を利用して画像評価と既存の手法として信頼性が高いLC-MS/MSを用いた測定結果を比較することが必要と考えている。
薬物血中濃度と実際の病変部位への薬物取り込み量が異なることが可視化されることは、分子標的薬のように標的を有する薬剤開発において強いインパクトを与えるが、実用化に向けて、生体試料の採取方法、前処理方法、検体前処理方法、測定条件設定が必要である。また、分析機器の機能向上が著しいため、医工連携研究体制が重要である。分子イメージング技術は、細胞あるいは全身レベルでの薬物可視化により新しい情報を示す革新的創薬研究手法の一つであり、適切な技術を複数取り入れることにより、本邦における医薬品開発研究が促進されることを期待している。
【学会賞など】
2013年 臨床薬理研究振興財団 学術論文賞
2011年 日本薬物動態学会奨励賞
2007年 臨床薬理研究振興財団奨励賞
2007年 ASCO Merit Award
2004年 日本薬学会九州支部奨励賞
【文献】
1)Sasada S, Kurihara H, Kinoshita T, Yoshida M, Honda N, Shimoi工Shimomura A, Yunokawa M, Yonemori1 K, Shimizu C, Hamada A, Kanayama Y, Watanabe Y, Fujiwara Y, Tamura K. 64Cu-DOTA-Trastuzumab PET imaging for HER2-specific primary lesions of breast cancer, Annals of Oncology. 2017(accepted).
2)Tanabe Y, Shimizu C, Hamada A, et al. Paclitaxel-induced sensory peripheral neuropathy is associated with an ABCB1 single nucleotide polymorphism and older age In Japanese. Cancer Chemother Pharmacol. 2017 (in press).
3)Iwama E, Goto Y, Murakami H, Harada T, Tsumura S, Sakashita H, Mori Y, Nakagaki N, Fujita Y, Seike M, Bessho A, Ono M, Okazaki A, Akamatsu H, Morinaga R, Ushijima S, Shimose T, Tokunaga S, Hamada A, et al. Alecttinib for patients with ALK rearrangement-positive non small cell lung cancer and a poor performance status. J Thorac Oncol. 2017 (in press).
4)Fujiwara Y, Hamada A, Mizugaki H, et al. Pharmacokinetic profiles of significant adverse events with crizotinib in Japanese patients with ABCB1 polymorphism, Cancer Sci, 107: 1117-23(2016).
5)Iwamoto N, Shimada T, Terakado H, Hamada A. Validated LC-MS/MS analysis of immune checkpoint inhibitor Nivolumab in human plasma using a Fab peptide-selective quantitation method: nano-surface and molecular-orientation limited (nSMOL) proteolysis. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 27; 1023-1024:9-16 (2016).
6)Aikawa H, Hayashi M, Ryu S, Yamashita M, Ohtsuka N, Nishidate M, Fujiwara Hamada A. Visualizing spatial distribution of alectinib in murine brain using quantitative mass spectrometry imaging, Sci Rep, 30; 6:23749(2016).
7)Yamashita M, Kitano S, Aikawa H, Kuchiba A, Hayashi M, Yamamoto N, Tamura K, Hamada A. A novel method for evaluating antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity by flowcytometry using cryopreserved human peripheral blood mononuclear cells, Sci Rep. 27;6:19772 (2016).
8)Kurihara H, Hamada A, et al. 64Cu DOTA-trastuzumab PET imaging and HER2-specificity of brain metastases in HER2-positive breast cancer patients. EJNMMI Research, 5:8(2015).
9)Yagishita S, Hamada A. Clinical pharmacology of EGFR/Met Inhibitors in non-small cell lung cancer, Current Drug Target, 21 :312-321(2014).
濱田 哲暢
国立がん研究センター研究所 分子薬理研究分野長
国立がん研究センター研究所 薬効試験部門長
学歴: 1992年 熊本大学大学院薬学研究科修了
職歴: 1992年 日本化薬株式会社総合研究所研究員
1999年 熊本大学医学部附属病院助手
2001年 同 講師
2005年 米国国立癌研究所客員研究員
2008年 熊本大学大学院臨床薬物動態学分野准教授
2012年 国立がん研究センター研究所
多層オミックス・バイオインフォーマティクス分野ユニット長
2013年 国立がん研究センター研究所 臨床薬理部門長
2015年 国立がん研究センター先端医療開発センター 臨床薬理TR分野長
2016年 国立がん研究センター研究所 臨床薬理研究分野長
2017年 国立がん研究センター研究所 分子薬理研究分野長/薬効試験部門長
兼任 2013年 熊本大学大学院医学教育部 客員教授
亀井 謙一郎
京都大学 物質ー細胞統合システム拠点(iCeMS)特定拠点准教授
創薬における前臨床試験では、薬剤候補化合物の薬理効果・薬物動態・副作用を詳細に検討する必要がある。しかし、動物を用いた前臨床試験ではヒトと異なる反応を示すことが多く、その評価を正確に判断・予測することが難しく、その結果、臨床試験で失敗する薬剤候補化合物が多い。また、動物実験自体も、倫理的な観点から「3Rの原則( Replacement :代替法の利用、Reduction :使用動物数の削減、 Refinement :実験方法の洗練と実験動物の苦痛軽減)」が求められている。そこで、よりヒトの生理学的な環境に近い、新しい試験法の開発が急務となっている。
そこで近年、世界的に着目されているのが、「Organ on a Chip (OoC) 」というマイクロ流体デバイスを用いた生体外単一臓器モデルである。これは昨年の世界経済フォーラム(ダボス会議)において「Top10 Emerging Technology 2016」にも取り上げられた技術であり、その実用化が非常に期待されている。
しかし、Oocのような単一臓器モデルでは臓器間相互作用を再現できない、という課題があった。また、薬物動態試験に必要なADME (Absorption (吸収)、Distribution (分布)、Metabolism (代謝)、Excretion (排出) )を再現できないことも課題となっている。これらの問題を解決するために、複数のOoCを外部チュープで連結したモデルも報告されているが、チュープや外部ポンプにおけるサンカレの損失が大きいため、正確な評価は難しかった。そこで本研究では、薬剤に対するヒトの生体応答をより正確に模倣する新しい技術「Body on a Chip (Boc)」を開発した。さらにその有用性を実証するために、臓器間相互作用によってもたらされる抗がん剤の副作用をBoCを用いて再現した。
我々のBocでは、polydimethylsiloxane (PDMS)製の単一マイクロ流体デバイス内で複数種の微小組織を培養し、デバイス内で細胞培養液と薬剤を内蔵ポンプにより循環して薬物動態試験を行う。微小組織を独立に培養するためのバルプ、代謝物循環用ポンプを内蔵することで、サンプル損失が少なくなり、より正確に臓器間相互作用を評価する。モデル細胞として正常細胞はヒト心筋細胞(hCMs)、がん細胞はヒト肝がん由来細胞株HepG2を使用した。抗がん剤としてDoxorubicin (DXR)を用い、細胞ダメージを評価するために死細胞のみを染色するDAPIを用いて蛍光顕微鏡観察を行い、得られた画像を用いた解析を行った。
従来から使用されている96ウェルプレートを使った単一組織細胞の薬物試験では、DXRのhCMsへの毒性は確認できなかったが、Body on a Chipのみで心筋組織に毒性が見られた。これはHepG2細胞においてDXRが代謝された産物DXRolによる作用であり、内蔵ポンプを使った循環灌流により代謝物を通じた臓器間相互作用であることを示唆している。この結果から本研究で開発したBody on a Chipは代謝物の循環により異種臓器間の相互作用を観測でき、創薬スクリーニングに応用できることを実証した。
最後に、Boc技術を取り巻く世界情勢と、これからの展望について述べたい。
【学会賞など】
2017年 一般社団法人電気学会「第73回電気学術振興賞(論文賞)」
2017年 文科省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業の「秀でた利用6大成果」に選出
2016年 iCeMS拠点長特別賞
2015年 第88回日本組織培養学会奨励賞
【文献】
1) K. Kamei*, Y. Mashimo, M. Yoshioka, Y. Tokunaga, C. Fockenberg, S. Terada, M. Nakajima, T. Shibata-Seki, L. Liu, T. Akaike, E. Kobatake, E. S. How, M. Uesugi and Y. Chen* "Microfluidic-nanofiber hybrid array for screening of cellular microenvironments" small, 13(18), 1603104; DOI: 10.1002/smll.201603104
(*Corresponding authors; *These authors contributed equally to this work.)
2)L. Liu, K. Kamei, M. Yoshioka, M. Nakajima, J.J. Li, N. Fujimoto, S. Terada, Y. Tokunaga, Y. Koyama, H. Sato, K. Hasegawa, N. Nakatsuji and Y. Chen
"Nano-on-micro fibrous extracellular matrices for scalable expansion of human ES/iPS cells"
Biomaterials, 124, 47-54 (2017); DOI: 10.1016/j.biomateria1s.2017.01.039
(*Corresponding authors)
3)K. Kamei, Y. Koyama, Y. Mashimo, M. Yoshioka, C. Fockenberg, M. Nakashima, R. Mosbergen, O. Korn, J. Li, C. Wells and Y. Chen*
"Characterization of phenotypic and transcriptional differences in human pluripotent stem cells under two- and three-dimensional culture conditions"
Advanced Healthcare Materials, 5(22), 2951-2958 (2016); DOI: 10.1002/adhm.201600893
(*Corresponding authors)
4)Y. Kato, Y. Hirai, K. Kamei, T. Tsuchiya and O. Tabata,
"Development of a Body-on-a-Chip Using 3-D Microstructuring Technique"
IEEJ Trans. SM, 136(6), 229-236 (2016) (in Japanese); DOI: 10.1541/ieejsmas.136.229
亀井謙一郎
京都大学 物質ー細胞統合システム拠点(iCeMS)特定拠点准教授
平成15年に東京工業大学大学院生命理工学研究科生命情報専攻から博士(工学)の学位を取得。その後すぐに渡米し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のHarvey Herschman教授のもとでCyclooxygenase-2とがんの関連性についての研究を行う。平成18年からはやはりUCLAのHsian-Rong Tseng教授のもとでマイクロ流体デバイスによる幹細胞制御のプロジェクト立ち上げを行う。これが現在の研究の根幹となっている。平成22年に現在の職場である京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)に移り、生体モデル「Body on a Chip」の開発を行っている。様々な研究分野を渡り歩いてきたが、今になってようやくその全てを活かせる研究と巡り会えたと実感している。
難波 正義
岡山大学名誉教授
岡山医学振興財団 代表理事
現在までにノーベル生理学・医学賞を受賞した研究を概観すると、いくつかの研究に培養細胞が貢献しています。今回は、これらの研究に培養細胞がどのように関わったかについて話します。また、不幸にしてノーベル賞には至らなかったけれども、重要と思われる培養細胞の事情について触れたいと思います。
ノーベル賞と培養細胞の関わり方には、1 )培養細胞そのものの研究がノーベル賞になったもの、例えば、ips細胞の樹立、2 )培養細胞がその研究にクリティカルな役割を果たしたもの、3 )培養細胞が実験材料として使用されたもの、4 )培養細胞には関係なくノーベル賞を受賞したが、培養細胞に強い関心をもった研究者、などに分けられます。ただ、今回は年代順に話を進めたいと思います。
細胞の培養は20世紀初頭から始まりました。1912年にニワトリの心臓組織の培養を始めたCarrel (1912年、血管縫合、臓器移植でノーベル賞)、1916年にラットやニワトリの正常組織や腫瘍組織からトリプシン処理で単離した細胞を培養したRous(1966年、発がんウイルスの発見でノーベル賞)らの仕事は、細胞レベルで医学的問題を研究しようと目指しており、優れた着眼であったと思います。そして、彼らは細胞の培養のパイオニアと言えます。
以下、ノーベル賞受賞と関連する培養細胞やその他の培養細胞のトピックについて、表に示した順にお話しします。
表 組織・細胞培養を利用した工ポックメーキングな研究ーノーベル賞を受賞した研究を中心にして一
Rous:1911年にRous sarcoma Virusの発見で、1966年にノーベル賞(発がんウイルス) / 1912年、トリプシンで組織を処理して分離した細胞の培養を開始(細胞培養)
Carrel:1912年、ノーベル賞(血管縫合、臓器移植)。その後、リンドバーグと人工心臓の開発も行った。/ 1912年、心筋組織片培養の開始。長期維持。
Earle:1943年、マウスL細胞株樹立
Gey:1952年、HeLa細胞の樹立
Enders, Robbins, Weller:1954年、ノーベル賞(組織培養によるポリオウイルスの増殖)。
TjiO Levan:1956年、ヒト染色体数と核型の決定
Issacs:1957年、インターフェロンの発見:ニワトリ漿膜の培養 / *1954長野、小島ウサギ/ワクシニアウイルスの実験系でウイルス増殖干渉物質
Okada:1962年、細胞融合法
Yasumura:1963年にvero細胞の樹立。現在、世界でウイルスワクチンの製造に使用されている。
Dulbecco, Temin:1975年ノーベル賞(DNA and RNA腫瘍ウイルスの研究)
Baltimore:Dulbecco培地の開発、逆転写酵素の発見
Köhler, Milstein:1984年、ノーベル賞(細胞融合によるモノクローナル抗体作成)
Brown, Goldstein:1985年、ノーベル賞(コレステロール代謝)、ヒト線維芽細胞
Levi-Montalcini, Cohen: 1986年、ノーベル賞(神経細胞成長因子、上皮細胞増殖因子の発見)
Gething, Sambrook:1988 protein folding in the cell CT-1細胞 Nature 355,33, 1992。小胞体ストレス森和俊京大教授
Blobel:1999年、ノーベル賞(Protein targeting) Myeloma cells/IgG
Evans:2007年、ノーベル賞(マウス胎児性幹細胞の培養化とトランスジェニックマウスの作製)
Zur Hausen:2008年、ノーベル賞(パピローマウイルスと子宮頚癌)
Edwards, Beutler:2010年、ノーベル賞 体外授精
Yamanaka、Gurdon:2012年、ノーベル賞 iPS Gurdon, J. 1962年、カエルの発生
Rothman, Schekman, Sudhof:2013年ノーベル賞 小胞輸送
【文献】
1 )難波正義、細胞培養とノーベル賞。組織培養研究、28 : 109、2009
2 )難波正義、細胞培養のノーベル賞への貢献。岡山医学会雑誌、122 : 33、2010
3 )難波正義、Renato Dulbecco:ダルべッコ培地。岡山医学会雑誌、123 : 27、2011
4 )難波正義、神経細胞成長因子(NGF)と上皮細胞増殖因子(EGF)の発見。
最新医学、70 : 2554 , 2015
5 )難波正義、がんウイルスの研究とダルべッコ培地。最新医学、72 : 750, 2017
難波 正義
岡山大学名誉教授
岡山医学振興財団 代表理事
1961年 岡山大学医学部卒業
1971年 岡山大学医学部癌研究施設病理部門助教授
1972年 スタンフォード大学医学部に留学(Hayflick研)
1974年 川崎医科大学実験病理部門助教授
1990年 岡山大学医学部細胞生物部門教授
1999年 岡山大学医学部長
2002年 新見公立大学・短期大学学長
2010年 Life Time Achievement Award(米国培養細胞生物学会)
2016年 瑞宝重光章
2016年 公益法人岡山医学振興会代表理事
井上 正宏
大阪国際がんセンター 生化学部 部長
子宮頚部小細胞癌は、若年発症で予後不良の希少がんである。小細胞型の神経内分泌腫瘍として、神経内分泌腫瘍の高悪性度型に分類される。子宮頚癌は扁平上皮癌と腺癌が大半を占めるのに対し、小細胞癌は全子宮頚癌の1-2%に過ぎない。症例数が少ないこと、細胞株を含む実験モデルが限られていることから、生物学的な特徴に関する知見が少なく、標準治療法も確立されていない。
我々は患者腫瘍検体からがん細胞を調製し三次元培養する新しい方法(cancer tissue-onginated spheroid (CTOS)法)を開発した。CTOS法の原理は調製・培養の過程を通じて細胞ー細胞間接着を維持することにある。CTOS法により患者腫瘍やPDX腫瘍から高純度で細胞死の少ない癌細胞を効率よく調製することができる。CTOSは由来する腫瘍の分化形質を維持している。これまでに、大腸癌、肺癌、膀胱癌、子宮体癌でCTOS法が応用可能であることを報告した。マウス移植腫瘍を2代以上継代でき、移植腫瘍から調製した多数のCTOSを凍結保存できたものを「CTOSライン」として、多数のラインからなるCTOSパネルの作製を行っている。子宮頚部小細胞癌については、9例から100%の成功率でCTOSラインの樹立に成功している。
この子宮頚部小細胞癌パネルを用いて、CTOSによる放射線感受性試験を行った。感受性例と非感受性例の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、hypoxia-inducible factor-1a (HIF-1α)の標的遺伝子が、放射線感受性例と比較して、耐性例でHSP90依存的に高発現していることが判明した。HIF-1αは放射線照射後に上昇し、HIF-1αノックダウンおよびHSP90阻害で感受性が増加することを明らかにした。
子宮頚部小細胞癌は高頻度(約31 % )で腺癌あるいは扁平上皮癌との混合腫瘍であり、これは肺小細胞癌の場合(約17 % )より高い。二つの組織型を示す癌細胞は、同一クローンから発生したものか、別個のクローンに由来するものかは明らかでない。過去の遺伝学的な解析研究から、同一腫瘍の二つの組織型部分は遺伝子変異の近似した腫瘍であることが明らかにされている。しかしこのような遺伝学的解析では同一のクローン由来であることの確定には至らない。子宮頚部小細胞癌CTOSパネルの中で腺癌と の混合腫瘍に由来するcerv21は、CTOSでも二つの組織型を維持していた。そこで、CTOSでの単細胞追跡を試みた。まず、神経内分泌マーカーの表面抗原であるCD99でソーティングして移植腫瘍を作製したところ、CD99-low分画からはすべて混合腫瘍となった。そこで、まずCD99-low分画でソーティングして再凝集によりスフェロイドを形成させ、EGFPを低効率でトランスフェクションした。一つのスフェロイドに一つのEGFP陽性細胞を持っスフェロイドを選別して培養し移植腫瘍を形成したところ、二つの組織型領域にEGFP陽性細胞が検出された。つまり、少なくともこの症例において二つの組織型が一つのクローンから派生することが証明された。腫瘍の内部環境が分化の方向性を決めている可能性があるが、低酸素培養下でHIF-1α/Notch依存的に神経内分泌的な性質が減弱した。
以上のように、CTOS法は希少がんである子宮頚部小細胞癌の特性解析に有用なプラットフォームとなりえる。
【文献】
1)Tashiro T, Okuyama H, Endo H, Kawada K, Ashida Y, Ohue M et al. In vivo and ex vivo cetuximab sensitivity assay using three-dimensional primary culture system to stratify KRAS mutant colorectal cancer. PLoS One 2017;12:e0174151.
2)Sato Y, Tateno H, Adachi J, Okuyama H, Endo H, Tomonaga T, et al. Generation of a monoclonal antibody recognizing the CEACAM glycan structure and inhibiting adhesion using cancer tissue-originated spheroid as an antigen. Sci Rep 2016;6:24823.
3)Okuyama H, Kondo J, Sato Y, Endo H, Nakajima A, Piulats JM, et al. Dynamic Change of Polarity in Primary Cultured Spheroids of Human Colorectal Adenocarcinoma and Its Role in Metastasis. Am J Pathol 2016;186(4):899-911.
4)Nakajima A, Endo H, Okuyama H, Kiyohara Y, Kimura T, Kamiura S, et al. Radiation sensitivity assay with a panel of patient-derived spheroids of small cell carcinoma of the cervix. Int J Cancer 2015; 136(12) :2949-60.
5) Endo H, Okami J, Okuyama H, Kumagai T, Uchida J, Kondo J, et al. Spheroid culture of primary lung cancer cells with neuregulin 1/HER3 pathway activation. J Thorac Oncol 2013;8(2):131-9.
6)Kondo J, Endo H, Okuyama H, Ishikawa O, lishi H, Tsujii M, et al. Retainng cell-cell contact enables preparation and culture of spheroids composed of pure primary cancer cells from colorectal cancer. Proc Natl Acad Sci U S A 2011;108(15) :6235-40.
井上 正宏
大阪国際がんセンター 生化学部 部長
昭和62年に大阪大学医学部を卒業し、外科研修の後、大阪大学小児外科に入局。大学院では大阪大学細胞工学センターの岸本忠三先生のラボにおられた審良静男先生のグループでSTAT3のクローニングに参加。大学院卒業後しばらく外科医をした後、平成10年からUCSFに留学。Hallmarks of cancerの著者として知られるDouglas Hanahan教授のもとで腫瘍血管新生の研究を行う。平成13年から現在の職場である大阪府立成人病センター(今春移転して大阪国際がんセンターに改称)に移る。平成20年ころから本格的に患者がん細胞培養に着手し、その後CTOS法開発に至った。趣味も仕事も生き物を飼うこと。
中村 卓郎
がん研究会がん研究所 副所長
骨軟部肉腫の約30 %は原因遺伝子として融合遺伝子を有している。融合遺伝子にコードされるタンパク質の大部分は転写プログラムに関わる機能を持っているため、エピゲノム異常との関わりも深い。また、融合遺伝子関連肉腫は、発症年齢が若い、付加的なゲノム異常が少ない、発生起源の不明な腫瘍が少なくない、といった傾向を示し、有効な薬物療法が少ない。融合遺伝子関連肉腫の病態を明らかにし新たな治療法を検討するためのプレクリニカルモデルの確立を目指して、我々はマウスモデルを作製して来た。このモデルは、マウス胎児間葉系細胞にex vivoで融合遺伝子を導入するGenetically engineered mouse model-derived allograft (GDA)モデルである。本講演では、4種類のマウスモデル、①Ewing肉腫モデル、②胞巣状軟部肉腫(ASPS)モデル、③CIC-DUX4肉腫モデル、④滑膜肉腫モデルについて呈示する。
EWSR1-FLI1に代表されるEwing肉腫原因遺伝子は、正常細胞に導入されると強力なoncogene-induced senescenceを誘導するため、マウス個体でEwing肉腫を再現することは困難であった。我々は、Ewing肉腫の発生母地として胎生後期の関節表面に出現する骨軟骨前駆細胞を同定しこの細胞にEWSR1-FLI1をex ⅵvoで導入することでEwing肉腫モデルを作製した。このモデルを端緒として、同様の手法を用いてASPS、CIC-DUX4肉腫、滑膜肉腫の誘導に成功した。これらの肉腫モデルにおいては、ヒト肉腫の病理形態が保たれているだけではなく、浸潤・転移の特性や遺伝子発現プロファイルもヒトの病態を良く反映されており、融合遺伝子とエピゲノム環境の統合が肉腫発生に重要であることが示唆された。
ASPSモデルでは、胞巣状構造を形成する微細な血管網の構築が特徴的で、腫瘍細胞によるべリサイトの誘導と被包化、頻繁な血管侵襲と多発肺転移が観察された。ASPSCR1-TFE3に制御されるGPNMB等の標的遺伝子を介した腫瘍と微小環境の相互作用がASPSの発生と転移の鍵を握っているとともに、この相互作用を標的とする新たな治療法の可能性が考えられた。CICーDUX4肉腫は、臨床上Ewing肉腫との鑑別が問題となるが、マウスモデルの作製によりCyclin D2やMUC5ACを新たなバイオマーカーとして同定した。また、本モデルはトラベクテジンやパルポシクリプによる治療効果の評価に有用であった。滑膜肉腫モデルでは、ヒトと同様に二相性の形態が再現されたが、増殖態度は緩徐で悪性化にはSS18SSX1と協調する分子を要すると考えられた。我々は、SS18SSX1の協調遺伝子としてマイクロRNAの miR-214を同定した。miR-214はcell non-autonomousに作用し腫瘍随伴性マクロファージを多く含む微小環境の改変を促進することが示された。
肉腫関連融合遺伝子は、適切な細胞環境の下でのみ本来の発がん機能を発揮するが、その意味において我々のモデルでは融合遺伝子の機能を正しく評価することを可能にするものである。これらのモデルを用いることにより、肉腫の生物学的特性の理解に基づいた新たな診断・治療法の開発への貢献を目指している。
【学会賞など】
2012年 日本病理学賞(日本病理学会) /白血病と骨軟部腫瘍の発生機構がん研究会学術賞
2015年 がん研究会学術賞
【文献】
1) Yoshimoto T, Tanaka M, Homme M, Yamazaki Y, Takazawa Y, Antonescu CR, Nakamura T.
CIC-DUX4 induces small round cell sarcomas distinct from Ewing sarcoma. Cancer Res, in press.
2) Tanaka M, Homme M, Yamazaki Y, Shimizu R, Takazawa Y, Nakamura T. Modeling alveolar soft part sarcoma unveils novel mechanisms of metastasis. Cancer Res,77:897-904,2017.
3) Yokoyama T, Nakatake M, Kuwata T, Couzinet A, Goitsuka R, Tsutsumi S, Aburatani H, Valk PJM, Delwel R, Nakamura T. MEIS1-mediated transactivation of synaptotagmin like 1 promotes CXCL12/CXCR4 signaling and leukemogenesis. J Clin Invest, 126:1664-1678,2016.
4) Tanaka M, Yamaguchi S, Yamazaki Y, Kinoshita H, Kuwahara K, Nakao K, Jay PY, Noda T, Nakamura T. Somatic chromosomal translocation between Ewsrl and Fli1 loci leads to dilated cardiomyopathy in a mouse model. Sci Rep,5:7826, 2015.
5) Tanaka M, Yamazaki Y, Kanno Y, Igarashi K, Aisakl K, Kanno J, Nakamura T. Ewing's sarcoma precursors are highly enriched in embryonic osteochondrogenic progenitors. J Clin Invest,121:3061-3074,2014.
中村 卓郎
国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野 分野長
昭和56年に東京医科歯科大学医学部を卒業し、大学院では病理学を学ぶ。悪性黒色腫や神経系腫瘍をテーマとした実験病理学に手を染めた後、平成9年から米国NCI(フレデリック)のNeal Copeland博士の下でマウスの遺伝学と白血病の研究に従事。この時Hoxa9やMeis1、NUP98-HOXA9を同定してしまったために、発がんにおける転写因子や融合遺伝子の研究に取り組むことになった。がん研究所に戻ってからは、白血病と骨軟部肉腫の研究に取り組むことで、真理の道へ到達することが出来ないかと模索を重ねるばかりである。
齊藤 秀
株式会社オプト 最高解析責任者CAO 兼 データサイエンスラボ代表
IoT等により生成されるビッグデータを人工知能により価値化することで社会基盤を刷新する未来観が、世界的な共通認識となりつつある。中でも医療におけるAl活用は最も注目されている領域の1つである。一般論として成功裏に人工知能開発を進めるためには3つの必要条件が存在する。1つ目は潤沢な活用可能な計算資源を有していることであり、2つ目は大量かつ良質なデータの整備であり、3つ目は高精度な人工知能を実装する能力を有する人材(才能)の存在である。この3つがすべて揃ってはじめて画期的な人工知能がローンチする可能性がある(十分条件ではないことに留意されたい)。1つ目の計算資源に関しては、米国企業を中心としたクラウドサービスへのアクセスがコモディティ化したことにより、オンデマンドで大量の計算資源にアクセスすること自体は容易になってきている。また、Deep Learning 等のフレームワークや学習済みモデル等、最先端のソースに無償でアクセスできる環境が提供されていることから、計算リソース確保の金銭的コストに起因する格差はあるものの後述する残り2点に比して重要な問題とはならない。2つ目は、現時点で最も重要なポイントであり、機械学習等に適した精度の高い網羅的な教師付きデータを経済合理的に十分量調達する能力は、人工知能開発を開始できるかどうかの最初のハードルとなっている。分析業界では前処理・データ整備タスクが全データ分析プロセスの大半を占めるといった表現をされることがある。特にインターネット等で公開されているオープンデータを人工知能開発に適した形式で収集する能力が競争力の差になっている。3つ目の人材は今後最も重要な差別化要因になっていくと考えられ、ここ数年のシリコンバレー大手企業によるAl関連スタートアップの買収劇にみられるようにAl関連人材の争奪戦は加速する一方である。そのような環境下において優秀なAl人材にアクセスできるかどうかは、Al戦略において最重要ポイントとなることは必至である。
では、成功しているAl開発事例では、後者2つの条件をどう満たしているのであろうか? 1つの方法としてインターネット経由のリソース活用、すなわち"クラウドソーシング''の活用がみられる。本講演では、 般論におけるこれらの状況を解説し、ライフサイエンス領域、産業のみならず科学研究領域でも同じ状況になりつつあることを例証する。
次に、演者が進めている大量の培養細胞・臨床検体データを活用した人工知能創薬、特にドラッグリポジショニングを情報学的に効率的に行う研究を紹介する。培養細胞・臨床検体データをインターネットを通じ広く収集し人工知能実装に有用な形式への変換、細胞レベルのモレキュラーデータと臨床レベルのアウトカムデータを結ぶ人工知能実装構想を提案する。本研究は緒に就いたばかりであり、まだ具体的な成功事例は多くはないが、全体構想における個々の技術的課題の可視化と産学連携で取り組む体制と状況を紹介する。また、演者は、日本最大のデータサイエンティストのクラウドソーシング基盤を保有している。本研究構想においても、当該基盤を活用することで前述の人工知能開発のトレンドを鑑みた研究開発の可能性を論ずる。
【文献】抜粋
1) G. Nagamatsu, S. Saito, K. Takubo, and T. Suda, Integrative analysis of the acquisition of pluripotency in PGCs reveals the mutually exclusive roles of Blimp-1 and AKT signaling, Stem Cell Reports, Vol. 5, Issue. 1, pp. 111-124, July 2015.
2) T. Kinoshita, G. Nagamatsu, S. Saito, K. Takubo, K. Horimoto. and T. Suda, Telomerase reverse transcriptase has an extratelomeric function in somatic cell reprogramming, Journal of Biological Chemistry, Vol. 289, No.22, pp. 15776-15787, May 2014.
3) T. Kosaka, G. Nagamatsu, S. Saito, M. Oya, T. Suda, and K. Horimoto, Identification of drug candidate against prostate cancer from the aspect of somatic cell reprogramming, Cancer Science, Vol. 104, Issue. 8, pp. 1017-1026, August 2013.
4) T. Shibata, A. Kokubu, S. Saito M. Narisawa-Saito, H. Sasaki, K. Aoyagi, Y. Yoshimatsu, Y. Tachimori, R. Kushima, T. Kiyono, and M. Yamamoto, NRF2 mutation confers malignant potential and resistance to chemoradiation therapy in advanced esophageal squamous cancer, Neoplasia, Vol. 13, No.3, pp. 864-873, September 2011.
5) T. Shibata, S. Saito, A. Kokubu, T. Suzuki, M. Yamamoto, and S. Hirohashi, Global downstream pathway analysis reveals a dependence of oncogenic NF-E2-Related Factor 2 mutation on the mTOR growth signaling pathway, Cancer Research, Vol. 70, Issue. 22, pp. 9095-9105, November 2010.
6) K. Kikuta, N. Tochigi, S. Saito, T. Shimoda, H. Morioka, Y. Toyama, A. Hosono, Y. Suehara, Y. Beppu, A. Kawai, S. Hirohashi, and T. Kondo, Peroxiredoxin 2 as a chemotherapy responsiveness biomarker candidate in osteosarcoma revealed by proteomics, Proteomics Clinical Applications. Vol. 4, Issue. 5, pp. 560-567, May 2010.
7) N. Uemura, Y. Nakanishi, H. Kato, S. Saito M. Nagino, S. Hirohashi, and T. Kondo, Transglutaminase 3 as a prognostic biomarker in esophageal cancer revealed by proteomics, International Journal of Cancer, Vol. 124, Issue. 9, pp. 2106-2115, May 2009.
8) S. Saito, H. Ojima, H. Ichikawa, S. Hirohashi, and T. Kondo, Molecular background of alpha-fetoprotein in liver cancer cells as revealed by global RNA expression analysis, Cancer Science, Vol. 99, Issue. 12, pp. 2402-2409, December 2008.
9) T. Orimo, H. Ojima, N. Hiraoka, S. Saito, T. Kosuge, T. Kakisaka, H. Yokoo, K. Nakanishi, T. Kamiyama, S. Todo, S. Hirohashi, and T. Kondo, Proteomic profiling reveals the prognostic value of adenomatous polyposis coli-end-binding protein 1 in hepatocellular carcinoma, Hepatology, Vol. 48, Issue. 6, pp. 1851-1863, December 2008.
10) H. Katoh, H. Ojima, A. Kokubu, S. Saito T. Kondo, T. Kosuge, F. Hosoda, I. Imoto, J. Inazawa, S. Hirohashi, and T. Shibata, Genetically distinct and clinically relevant classification of hepatocellular carcinoma: putative therapeutic targets, Gastroenterology, Vol. 133, Issue. 5, pp. 1475-1486, November 2007..
齊藤 秀
株式会社オプト 最高解析責任者CAO 兼 データサイエンスラボ代表
2001年 北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻修士課程修了。
2011年 九州大学大学院システム生命科学府にて学位取得:博士(システム生命科学)。
バイオ・ヘルスケア領域を中心に幅広い業種のデータ分析・共同研究・コンサルテーション業務に従事。
2013年2月 日本初のデータ分析コンテストサービスを設立。
2013年12月 株式会社オプトにてデータサイエンス研究開発組織、データサイエンスラボ設立。社内外のデータサイエンス・AIプロジェクトにおいて、企画・データ取得・分析・モデリング・運用まで幅広く支援。
DeepAnalyitics(https://deepanalyitics.jp)にて、多数の企業・行政のデータ活用コンテストを実施。データサイエンス人材育成にも注力し、未来投資会議第4次産業革命人材育成推進会議第1回講師。自民党教育再生実行本部第2回成長戦略のための人材教育部会講師。社外では様々な研究プロジェクトに参画、国立がん研究センター研究所 客員研究員として、ビッグデータ創薬の研究に従事。筑波大学人工知能科学センター 客員教授として、人工知能の研究に従事。統計数理研究所 客員准教授として、IR(Institutional Research)の研究に従事。
ポスター番号-01
肉腫の新しい治療法開発のための患者由来がんモデルの樹立
〇近藤格1) 2) 3)、高橋真美4)、小山理恵子2)、紀藤房子2)、佐久本真梨夢2)、塩澤久美子1)、喬志偉1) 中嶋幸生1)、服部恵美1)、今井俊夫4)、吉田朗彦5)、川井章3) 6)
国立がん研究センター 1)研究所・希少がん研究分野、2)研究所・創薬標的シーズ評価部門、3)希少がんセンター、4)研究所・動物実験施設、5)中央央病院・病理科、6)中央病院・骨軟部腫瘍科
【目的】新しい治療法開発のために患者由来がんモデル(patient-derived cancer model)は必須のツールである。希少がんである肉腫は、分子生物学的、臨床的に多彩な悪性腫瘍である。難治であることから新しい治療法が求められている。本研究の目的は、新しい治療法開発のために有用な肉腫の患者由来がんモデルを樹立することである。【方法】国立がん研究センター中央病院で手術を行った肉腫症例を対象として、手術検体を高度免疫不全マウスの背部皮下に移植し、並行して培養細胞株の樹立を試みた。既存の抗がん剤の肉腫への適応拡大を目的として、樹立した細胞株に対して市販抗がん剤の増殖阻害効果をスクリーニングした。【結果】40例からゼノグラフト株、29例から細胞株を樹立した。樹立した細胞株に対して低濃度で抗腫瘍効果を示す既存の抗がん剤を同定した。【考察】樹立した株を新しい治療法の開発に役立てていきたい。
ポスター番号-02
新しい治療法開発のための肉腫ゼノグラフト株の樹立
〇高橋真美1)、石ヶ守里加子1)、小山理恵子2)、塩澤久美子3)、吉田朗彦4)、5)、川井章5)、6)、今井俊夫1)、近藤格2)、3)、5)
国立がん研究センター 1)研究所・動物実験施設、2)研究所・創薬標的シーズ評価部門、3)研究所・希少がん研究分野、4)中央病院・病理科、5)中央病院・希少がんセンター、6)中央病院・骨軟部腫瘍科
【目的】新しい治療法開発のためにpatient-derived xenograft(PDX)は必須のツールである。希少がんである肉腫は、分子生物学的、臨床的に多彩な悪性腫瘍であり、難治であることから新しい治療法が求められている。本研究の目的は、新しい治療法開発のために有用な肉腫のPDX株を樹立することである。【方法】2014年 4月から2016年5月末まで、国立がん研究センター中央病院で手術を行った肉腫症例95例を対象とした。手術検体を高度免疫不全マウスの背部皮下に移植した。プロテオーム解析を行った。【結果】40例(15組織型) からPDX株を樹立した。PDXは元の腫瘍組織の形態と分子背景を維持していた。樹立成功率は平均すると42%だった。【考察】樹立の過程で保存される分子パスウェイ、易樹立性を規定する分子生物学的因子の同定が今後の課題である。樹立されたPDX株を利用した前臨床試験を計画している。
ポスター番号-03
CIC-DUX4肉腫細胞株のFDA承認120抗がん剤スクリーニング
〇小山理恵子1)、高橋真美2)、吉田朗彦3)、新井康仁4)、佐久本真梨夢1)、高井庸子1)、紀藤房子1)、塩澤久美子5)、喬志偉5)、遠藤誠6)、柴田龍弘4)、川井章6)、近藤格1)、5)
国立がん研究センター 1 )研究所・創薬標的シーズ評価部門、2)研究所・動物実験施設、3)中央病院・病理科、4)研究所がん・ゲノミクス研究分野、5)研究所・希少がん研究分野、6)中央病院・骨軟部腫瘍科
【目的】CIC-DUX4融合遺伝子を持つ肉腫(CIC-DUX4 fusion positive small round cell sarcoma, CDS)は発症率が極めて低い。ユーイング肉腫と形態が類似するが、より悪性を示す。患者由来動物モデルおよび細胞株を作製し、生物学的理解や治療法開発などへ向けた研究リソースを提供する。【方法】手術で摘出された CDS組織を超免疫不全マウスへ移殖し、腫瘍組織を得た。これを播種して細胞培養し安定株を作製した。細胞株の4 fusion transcript発現と、WT-1およびETV4陽性を確認した。FDA承認薬120種類に対する細胞増殖抑制効果を解析した。【結果】CDSの特徴を示すゼノグラフト株と細胞株を樹立した。細胞株は1.5年間で40回継代し現在も継続中である。この細胞株に対して細胞増殖抑制を示す抗がん剤複数種を明らかにした。ユーイング肉腫と異なる薬剤感受性が示された。【考察】樹立したCDS細胞株を使った新しい治療法などの開発が期待される。
ポスター番号-04
肉腫患者由来ゼノグラフトのプロテオーム解析
〇塩澤久美子1)、高橋真美2)、石ヶ守里加子)、小山理恵子3)、吉田朗彦4)、5)、喬志偉1)、川井章5)、6)、今井俊夫2)、近藤格1)、3)、5)
国立がん研究センター 1)研究所・希少がん研究分野、2)研究所・動物実験施設、3)研究所・創薬標的シーズ評価部門、4)中央病院・病理科、5)中央病院・希少がんセンター、6)中央病院・骨軟部腫瘍科
【目的】患者由来ゼノグラフト(PDX)株を臨床試験において有効に活用するために、PDX株を樹立する過程で変化するプロテオーム像を理解することが必要である。本研究の目的は、前臨床試験におけるPDX株の最適な活用法を確立することである。【方法】40例(15組織型)から樹立されたPDX株および元の腫瘍組織を対象とした。in-solution digestionを行ない、得られたペプチドサンプルをLC-MS/MSで測定した。ソフトウェア Mascotによりタンパク質を同定し、KEGGパスウェイ解析を行った。【結果】PDXに特徴的なEndocytosisや MAPK signaling pathwayなどに分類されるタンパク質を同定した。【考察】本研究が、新たな治療法開発を推進する基盤となることが期待される。
ポスター番号-05
チロシンリン酸化酵素活性の視点から
patient-derived cancer modelの有用性の検討
〇喬志偉1)、紀藤房子2)、小山理恵子2)、高橋真美2)、川井章4)、近藤格1)、2)
国立がん研究センター 1)研究所・希少がん研究分野、2)研究所・創薬標的シーズ評価部門、3)研究所・動物実験施設、4)中央病院・骨軟部腫瘍科
【目的】Patient-denved cancer modelは前臨床試験に有用であると考えられている。しかしモデル系で得られた実験結果は必ずしも臨床的な事象と一致しない。本研究では、治療標的であるチロシンリン酸化酵素の活性の視点から、patient-derived cancer modelの有用性および限界を評価した。【方法】チロシンリン酸化酵素の活性をベプチドアレイ(Pamstation、PamGene社)で網羅的に調べ、同一症例の腫瘍組織、患者由来ゼノグラフトおよび細胞株を比較した。【結果】チロシンリン酸化酵素の活性プロファイルは3者それぞれに異なり、モデル系を樹立する過程で多くのチロシンリン酸化酵素の活性が変化していることがわかった。一方、活性が変化しないリン酸化も観察された。【考察】モデル系作製の過程で変化しない分子パスウェイを同定することが、patient-denved cancer modelの有効活用に必須であると考えられる。
ポスター番号-06
がん細胞の2次元培養と3次元培養比較
マイクロパターン培養プレートCell-ableを使った3次元培養
〇城村友子、赤平有希
東洋合成工業株式会社
【目的】近年、細胞培養分野では2次元培養より生体内に近い環境を構築できると考えられる3次元培養が注目されている。我々は2次元培養と3次元培養におけるがん細胞の幹マーカー遺伝子やトランスポーター遺伝子の発現量、抗がん剤に対する抵抗性を比較した。【方法】2次元培養はスミロンセルタイト96-well plate (住友べークライト)、3次元培養はCell-able 96-well plate(東洋合成工業)を用いて行った。【結果】2次元培養と比較して3次元培養ではStemnessマーカー遺伝子発現や排泄トランスポーター遺伝子発現の上昇が認められ、抗がん剤への抵抗性が高くなった。【考察】3次元培養細胞は2次元培養細胞と比較して CD44/CD24を示し幹細胞様の性質をもった細胞の割合が上昇している事が示唆された。また、排泄トランスポーター遺伝子発現も上昇した。これらが3次元培養において抗がん剤に対する抵抗性が高くなる一因と考えられる。
ポスター番号-07
製薬領域におけるクラウドソーシング活用の実状
〇韓智皓1)、齊藤秀1)、2)、3)、4)
1)株式会社オプト データサイエンスラボ、2)国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野、
3)筑波大学 人工知能科学センター、4)統計数理研究所 複雑構造モデリンググループ
【目的】製薬領域におけるクラウドソーシング活用の調査研究【方法】Google Scholar、PubMedにおいて既存文献の調査を行い、内容をまとめた【結果】近年、研究開発における課題解決のアプローチとしてクラウドソーシングの活用が盛んになっており、製薬領域においてもまた然りであった。クラウドソーシングの有効性は「diversity trumps ability」の定理と関連しており、多様な参加者を獲得することで課題解決を成功に導く事例が多数認められ、これらの事例はデータ分析コンテストを開催するプラットフォームを通じて実現されていた。【考察】クラウドソーシングの活用は、研究開発における期間の短縮化や費用の削減、多様な参加者による網羅的分析が行われる点で特に有効であると言える。希少疾患の事例においても、オープンイノベーションの推進により個々の医療機関、研究機関における希少なデータを世界中から収集することでデータの質が向上しクラウドソーシングを通じて多数のアイデア・知見を導入し解決を図ることで、効率的な創薬発見に繋がると考えられる。
ポスター番号-08
Trabectedin (Yondelis; ET-743) は淡明細胞肉腫の分化を誘導する
Trabectedin induced melanocytic differentiation on clear cell sarcoma cell lines.
〇中井隆彰1)、中井翔1)、安田直弘1)、竹中聡1)、濱田健一郎1)、名井陽1)、吉川秀樹1)、中紀文1)
1)大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座
【目的】淡明細胞肉腫はメラノサイトへの分化を示す高悪性度軟部肉腫で、有効な抗癌剤がなく新規治療薬の開発が切望されている。ヒト淡明細胞肉腫細胞株に対するtrabectedinの抗腫瘍効果を検討した。【方法】淡明細胞肉腫細胞株4株に対し、in vitroでtrabectedinによる細胞増殖抑制効果や細胞周期への影響およびメラノサイト分化マーカーの発現変化を評価した。さらにin vivoでの腫瘤増大抑制効果を検討した。【結果】4株全てでtrabectedinによる細胞増殖抑制、G2/M期での細胞周期停止およびメラノサイト分化マーカーの発現増加を認めた。in vivo実験系でも腫瘤増大抑制効果を認め、薬剤投与群ではメラニン陽性細胞数の増加を認めた。【考察】Trabectedinは淡明細胞肉腫に対して高い抗腫瘍効果を発揮した。その作用機序の一つとしてメラノサイトへの分化誘導を促進している可能性が示唆され、本薬剤が淡明細胞肉腫に対する有望な治療薬となり得る可能性が示された。
ポスター番号-09
ヒト淡明細胞肉腫細胞株に対するEribulin mesilateの抗腫瘍効
〇中井翔1)、中井隆彰1)、安田直弘1)、竹中聡1)、濱田健一郎1)、名井陽1)、吉川秀樹1)、中紀文1)
1)大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座
【目的】淡明細胞肉腫(以下CCS)は既存の抗癌剤への感受性に乏しく、メラノサイトへの分化を示す稀な高悪性度軟部肉腫である。今回、我々はCCS細胞株を用いてEribulin mesilate(以下Eribulin)の抗腫瘍効果を検討した。【方法】CCS細胞株4株(Hewga-CC、KAS、MP-CCS-SY、SU-CCS1)を対象とし、in vitro、in vivoで抗腫瘍効果及びメラノサイトの分化マーカーの変動について検討した。【結果】in vitroにおいて4株全てで増殖抑制、細胞死誘導、G2/M期での細胞周期停止を認めた。また、MITF、TYRなどの分化マーカーが上昇した。in vivoではHewga-CCS細胞株に対して著明な腫瘤増大抑制効果を示しmelanin合成量の増加が観察された。【考察】EribulinはCCS細胞株に対して高い抗腫瘍効果を発揮し、分化誘導作用を有した。分化制御の作用機序や他の抗癌剤・分子標的薬との併用療法について現在検討中である。
ポスター番号-10
Ewing-like sarcoma細胞株樹立と新規融合遺伝子の解析
〇安田直弘、山田修太郎、中井翔、中井隆彰、竹中聡、濱田健一郎、吉川秀樹、中紀文
大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座
【目的】Ewing-like sarcomaは予後不良な小円形細胞肉腫である。近年CIC-DUX4等の新規融合遺伝子が同定されてきたが、生物学的特性は未だ明らかにされておらず標準治療も確立されていない。今回、我々は Ewing-like sarcoma細胞株の樹立と新規融合遺伝子の解析に取り組んだ。【方法】初診時肺転移を認めた9歳女児背部腫瘍の手術検体を用いて細胞株の樹立、染色体解析、特異的融合遺伝子のcloningを試みた。【結果】in vitro、in vivoで安定継代可能なCIC-DUX4融合遺伝子を有するEwmg-like sarcoma細胞株の樹立に成功した。染色体解析では過去に報告のないt(12;19)(q13;q13)の染色体転座を有し本来のDUX4配列から 6塩基を欠損したCIC-DUX4の配列を認めた。【考察】今後、本肉腫細胞株を用いてEwing-like sarcomaの発症・進展に関わる分子生物学的機序を明らかにし同腫瘍に対する新規治療法開発を目指す。
ポスター番号-11
Ewing肉腫マウスモデルを使用した
EWS-FLI1の腫瘍発生と進展における機能解析
〇清水六花1) 2)、田中美和1)、山崎ゆかり1)、本目みずき1)、北川善政2)、中村卓郎1)
1)がん研究会がん研究所 発がん研究部、2)北海道大学大学院歯学研究科 ロ腔診断内科
【目的】Ewing肉腫(ES)におけるEWS-FLI1(EF)の腫瘍発生と進展に関わる機能の解明するためにマウスESモデルを用いて実験を行った。【方法】マウスES細胞株でEFのChlP-seqを行い、EFの結合領域やそこに濃縮されるモチーフ、及び周囲のヒストン修飾状況を調べた。またマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、新たな標的遺伝子候補を同定してその機能を調べた。【結果】ChlP-seqの結果、EFの結合領域及び近傍遺伝子1,433個が同定された。EFはマウスにおいてもヒトと同じくエンハンサー領域への結合が顕著で、 GGAAリピートに多く結合していた。また、EF結合領域近傍にFox結合モチーフが高頻度で検出された。【考察】EFはGGAAリピートに結合してエンハンサーとして作用することが示唆された。EFとFox family転写因子は協調因子として働き、標的遺伝子の発現を制御している可能性が示された。
ポスター番号-12
Diced Electrophoresis Gel (DICE) 法を用いた
癌細胞における活性異常酵素の探索
〇小松徹1)、小名木淳1)、浦野泰照2) 3)
1)東京大学大学院薬学系研究科、2)東京大学大学院医学系研究科、3)AMED-CREST
【目的】演者らは、特定の酵素活性を有するタンパク質をプロテオーム中から高精度に発見し,その標的タンパク質の発見を可能とする実験手法の開発を進めてきた。これは、プロテオームを二次元の非変性電気泳動によって分離しゲルを細分してマルチウェルプレート(SAINOME)に導入し、酵素活性測定をおこない、目的の活性を有するタンパク質の同定をおこなうというものである。本研究では、このような酵素活性本体を同定する基盤技術と、生体内の様々な酵素活性を網羅的に評価する研究手法を合わせることにより、異なる細胞種や疾患の状態に応じた酵素活性の変化を網羅的に評価し、特異な活性の変化を示す酵素を効率的に探索する研究手法の開発をおこなった。【方法・結果】種々の蛍光プローブのライブラリ、ペプチドのライブラリの酵素による代謝を高スループットで評価する手法を構築し、活性の変化が見られるタンパク質を効率的に見出す仕組みを確立した。これを用いて、特定の癌細胞において高活性が観察されるいくつかの酵素を発見することに成功したので、結果の考察と併せて報告させていただく。
ポスター番号-13
CorningⓇフルオロブロックインサートによる細胞遊走、浸潤評価系
〇江藤哉子1)、Jeff Partridge2)、Hilary Sherman2)
1)コーニングインターナショナル株式会社、2)Corning Incorporated, Life Sciences
【目的】癌研究で実施される細胞の遊走・浸潤実験において、 実験結果をプレートリーダーやイメージング装置で測定可能な遮光性メンブレンのcorningフルオロブロックインサートの有用性を評価した。【方法】MCF-7細胞をCorningフルオロブロックインサートに播種後、BioTek Cytation 3 Imaging Multi Mode Readerにて24時間の経時観察を行った。HT1080細胞の浸潤では抗がん剤を添加しその効果を調べた。【結果】MCF-7細胞は、遊走を惹起する誘引物質を加えた条件で経時的に細胞が遊走することが観察された。HT1080細胞の浸潤では、paclitaxelやdoxycyclineが濃度依存的に阻害効果を示すことが示された。【考察】corningフルオロブロックインサートの、癌細胞の遊走や浸潤の研究を行う際の簡便性や経時観察可能なツールとしての有効性が示唆された。
ポスター番号-14
CorningⓇスフェロイドマイクロプレートを用いた腫瘍スフェロイドにおけるCAR-T細胞スクリーニング
〇田口亜紀子1)、Audrey B. Bergeron B. S. 2)、Hannah J. Gitschier M.3)
1)コーニングインターナショナル株式会社 ライフサイエンス事業部、2、3) Corning Incorporated,Life Sciences
【目的】CAR-T細胞の固形腫瘍への効果を評価するアッセイの構築を目指した。【方法】EGFRを高発現している癌細胞(HCC827細胞)をCorning384ウェルスフェロイドプレートで3D培養した後に、EGFRを抗原として認識するCAR-T細胞を異なる混合比率で作用させ浸潤アッセイを行った。さらに、2Dおよび3 D培養を行ったHCC827細胞にCAT細胞を作用させ、KILRⓇ細胞毒性アッセイで細胞障害性を調べた。【結果】3D培養したHCC827細胞に加えるCAR-T細胞の比率により、24時間後のCAR-T細胞の浸潤や影響に違いが観察された。2D及び3D培養をした細胞へCAR-T細胞を作用させ細胞毒性アッセイを行うと、CAR-T細胞の比率が高いとその効果も高くなった。【考察】Corningスフェロイドプレートでの3D培養とKILRⓇ細胞毒性アッセイを組み合せることで、固形腫瘍へのCAR-T細胞の効果を調べる評価系の可能性が示唆された。
ポスター番号-15
未分化型胃がん患者からの腹膜転移細胞株の樹立とオミックス解析
〇小松将之1)、千脇史子1)、坂本裕美2)、市川仁3)、小松崎理絵1)、濱ロ哲弥4)、朴成和4)、松崎圭祐5) 落合淳志6)、吉田輝彦2)、佐々木博己1)
1)国立がん研究センター研究所バイオマーカー探索部門、2)国立がん研究センター研究所遺伝医学研究分野、 3)国立がん研究センター研究所臨床ゲノム解析部門、4)国立がん研究センター中央病院消化器内科、5)要町病院、6)国立がん研究センター研究所先端医療開発センター
【目的】転移はがんにおける死因の多くを占めるにもかかわらず、その機構は十分に解明されていない。そのため、転移巣に存在するがん細胞に特化したオミックス解析は、転移機構の解明のみならず、革新的治療標法の開発にも資すると考えられる。【方法】我々は致死的な癌性腹水を来すことで知られる未分化型胃がんを対象に、患者の貯留腹水からがん細胞株を樹立し7層のオミックス解析(WES、RNA-Seq、SNP array、NCC Oncopanel、Microarray、Epigenome、Proteome)を行った。【結果】現在まで48症例から84株の樹立に成功しており、そのうち41株についてオミックス解析を完了した。原発巣と比較して腹水中のがん細胞では遺伝子異常が高頻度で生じており、創薬標的として有望な分子経路の異常も複数見出された。【考察】腹水中のがん細胞に多くの遺伝子異常が認められたことから、我々のがん細胞株パネルを用いることで腹膜播種を標的とした治療法の開発が可能であると考えられる。
ポスター番号-16
革新的研究開発推進のための腹水由来アジアがん細胞株プロジェクト
〇千脇史子1)、坂本裕美2)、小松将之1)、小松崎理絵1)、濱ロ哲弥3)、松下弘道4)、松崎圭祐7)、 落合淳志5)、吉田輝彦6)、佐々木博己1)
1)国立がん研究センター研究所 創薬標的・シーズ探索部門、2)研究所 臨床ゲノム解析部門、3)中央病院 消化管内科、4)中央病院 病理・臨床検査科、5)先端医療開発センター、6)基盤的臨床開発研究コアセンター、7)要町病院・要第2クリニック
【目的】ゲノム情報を基にした新薬開発推進のため、がん性腹水由来の細胞株樹立とその特性評価をする。【方法】未分化型胃がんを中心に腹水沈渣をプレート培養、及びマウス腹腔内への移植により樹立した。胃がん患者腹水自体と株化細胞に対しては、がん幹細胞マーカーCXCR4などをFACSで解析した。また免疫不全マウスの腹腔内移植腫瘍の病理組織を観察した。【結果】約7年間で未分化型胃がん48症例84株、膵がん10症例16株、卵巣がん4症例5株、食道胃接合部がん1株、胆のうがん1株、中皮腫1株、脂肪肉腫1株の合計7 種のがんから109株を樹立した。多くの株は免疫不全マウスへの腹腔内移植により腹水貯留を示したが、特にCXCR4高発現胃がん細胞株はその傾向が高かった。【考察】中皮依存的ながん細胞の樹立は困難であるが、総株化率は約3割と原発組織よりも好成績だった。これらの細胞株はオミックス情報を伴っており(小松ら発表)、腹膜再発の機構解明、標的探索、及び新薬の前臨床試験などで活躍している。
ポスター番号-17
患者乳癌組織移植モデル(Breast Cancer PDX)の生着率について
〇村井由起1)、松金良祐1)、原田春香1)、林光博1)2)、濱田哲暢1)2)
1)国立がん研究センター研究所 基盤的臨床開発研究コアセンター 薬効試験部門、2)同 研究所 分子薬理研究分野
【目的】治療抵抗性に関わる腫瘍不均一性を模倣する非臨床モデルとして患者組織移植モデル(PDX)が再注目されている一方で、その樹立効率については不明な点が多い。当室では乳癌、希少がんを対象にPDXを作製しており、今回乳癌例の生着率について報告する。【方法】2015年9月以降、国立がん研究センター中央病院で採取された乳癌74検体を免疫不全マウスへ移植した。3mm以上腫瘤を触知した例を生着、第2世代以降の生着確認例を樹立とし検討した。【結果】初回生着率は31.1%(23/74例)であり、初回生着日数の中央値は60日であった。樹立率は17.6(13/74例)であり、第2、3世代の生着日数中央値は20日、13日であった。作製した組織においては、ドナー腫瘍の組織像やHER2の不均一な発現が模倣されていた。【考察】当センターにおける乳癌PDX生着率は海外の報告と同程度であり、初回生着以後は継代必要日数が短縮されていた。これらの基礎データをもとに、PDXを用いた非臨床試験を進めていくことが期待される。
ポスター番号-18
Heterogeneous distribution of alectinib in neuroblastoma xenografts revealed by matrix-assisted laser desorption ionisation mass spectrometry imaging: A pilot study
〇Shoraku Ryu1)3)、Mitsuhiro Hayashi1)2)、Hiroaki kawa1)2)、Isamu Okamoto4)、Yasuhiro Fujiwara5)、Akinobu Hamada1)2)3)6)
1)Division of Molecular Pharmacology, National Cancer Center Research Institute
2)Division of Clinical Pharmacology & Translational Research Exploratory Oncology Research & Clinical Trial Center National Cancer Center
3)Department of Pharmacology & Therapeutics, Fundamental Innovative Oncology Core, National Cancer Center Research Institute
4)Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University
5)Strategic Planning Bureau, National Cancer Center
6) Department of Medical Oncology and Translational Research, Graduate school of Medical Sciences, Kumamoto University
【Purpose】 The penetration of the anaplastic lymphoma kinase (ALK) inhibitor alectinib in neuroblastomas and the relationship between alectinib and ALK expression are unknown. The aim of this study was to perform a quantitative investigation of the inter- and intra-tumoural distribution of alectinib in different neuroblastoma xenograft models using matrix-assisted laser desorption ionisation mass spectrometry imaging (MALDI-MSI). 【Experimental Approach】The distribution of alectinib in NBI (ALK amplification) and SK-N-FI (ALK wild-type) xenograft tissues was analysed using MALDI-MSI. The abundance of alectinib in tumours and intra-tumoural areas was quantified using ion signal intensities from MALDI-MSI after normalisation by correlation with LC-MS/MS. 【Key Results】The distribution of alectinib was heterogeneous in neuroblastomas. The penetration of alectinib was not significantly different between ALK amplification and ALK wide-type tissues using both LC-MSMS concentrations and MSI intensities. Normalisation with an internal standard increased the quantitative property of MSI by adjusting for the ion suppression effect. The distribution of alectinib in different intra-tumoural areas can be alternatively quantified from mass spectrometry images by correlation with LC-MS/MS. 【Conclusion and Implications】The penetration of alectinib into tumour tissues may not be homogenous or influenced by ALK expression in the early period after single-dose administration. MALDI-MSI may prove to be a valuable pharmaceutical method for elucidating the mechanism of action by clarifying the microscopic distribution of drugs in heterogeneous tissues.
ポスター番号-19
Development of a fast and highly efficient method to establish ovarian cancer cell lines
〇Farhana I. Ghani1)、Takashi Yugawa1)、Tomomi Nakahara1)、Yuki Yoshimatsu1)、Kazuaki Takahashi2)、
Takashi Kohno2)、Reiko Watanabe3)、Hiroshi Yoshida3)、Masayuki Yoshida3)、Mitsuya Ishikawa4)、Tomoyasu Kato4)、Tohru Kiyono1)
1)Div. Carcinog. Cancer Prev., 2)Div. Genome Biology, Natl. Cancer Ctr. Res. Inst., 3)Pathol. Div., 4)Dep. Gynecology, Natl. Cancer Ctr. Hosp.
【Aim】To develop a culture condition which efficiently generates patient derived human ovarian cancer cell lines.
【Methods】 EpCAM-positive cancer cells from resected tumor tissues were isolated and cultured in different conditions for optimization. 【Results】By modifying a culture condition which supports primary normal human oviductal epithelial cells, we could optimize the methods and culture condition which generated 19 new cell lines including 12 consecutive success until now. These include all four major histological types, high-grade serous, clear cell, endometrioid and mucinous adenocarcinomas of ovarian cancer. Expression of several specific markers analyzed by Western blot were in line with the pathological diagnosis. Three lines out of six so far examined for tumorigenicity formed tumors in nude mice and the xenograft tumor tissues recapitulated the original tumor tissue architecture faithfully. 【Discussion】The new ovarian cancer lines will be useful for various preclinical studies.
ポスター番号-20
小児脳腫瘍初代培養細胞に対する薬剤スクリーニング
〇中野嘉子1)、喬志偉2)、小山理恵子2)、中嶋幸生2)、山崎夏維3)、原純一3)、近藤格2)、市村幸一1)
1)国立がん研究センター研究所 脳腫瘍連携研究分野、2)同 希少がん研究分野、3)大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科
【目的】小児脳腫瘍患者由来の細胞を用いた薬剤スクリーニングを行い、個別化医療の実現や新たな治療選択肢の可能性を探る。【方法】Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)の患者検体から継代可能となった細胞を用いて、165種類の低分子化合物抗腫瘍薬を対象にスクリーニングした。【結果】TKIやHDAC inhibitorを含む14剤が98%以上の細胞増殖抑制率を示した。【考察】TKIはAT/RTの一部の群に効果が期待し得ることが基礎実験レベルで報告されていることと併せ、本症例の再増悪時に使用することを検討している。さらに、感受性を示した薬剤には小児脳腫瘍に対しては通常使用されない抗腫瘍薬も含まれており、これらの有効性についても解析を進めることで新たな治療選択肢となる可能性がある。
ポスター番号-21
手術検体由来がん幹細胞のin vitro培養系の確立とその生物学的特性の解析
〇大畑広和1)、佐藤愛1) 、山脇芳1)、塩川大介1)、岡本康司1)
1 )国立がん研究センター・研究所・がん分化制御解析分野
【目的】近年、難治がんの治療抵抗性を克服する方法として、がん幹細胞を標的とした治療法の開発が有力な選択肢であると期待されており、その為にはがん幹細胞の生物学的特性を理解する事が重要である。そこで我々は、大腸がん及び卵巣がん手術検体由来のがん幹細胞の継代培養系を確立しその生物学的特性を解析する事を目的とした。【方法】大腸がん及び卵巣がん手術検体を用いて、スフェロイド培養法によりがん幹細胞を樹立しマウス移植実験等によりその生物学的特性を解析した。【結果】Rho kimase阻害剤を含む、ES細胞用培地を使用する事により、in vitroにおけるがん幹細胞の安定的な継代培養が可能となった。
マウス移植実験により、樹立した大腸がん及び卵巣がん幹細胞はヒト原発がんと病理学的に区別できない腫瘍を形成した。【考察】今後は大腸がん及び卵巣がん幹細胞の生物学的特性を追究する事により、革新的な抗がん剤の開発を目指したい。
株式会社キーエンス
理科研株式会社