抄録

安達 雄輝

国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野

世界初の再発骨巨細胞腫(Giant Cell Tumor of Bone: GCTB)細胞株樹立と特性評価:薬物治療の最適化を目指して

 

【目的】骨巨細胞腫(Giant Cell Tumor of Bone: GCTB)は、マクロファージと破骨細胞様の巨細胞を伴う腫瘍性の単核間質細胞から構成される骨原発腫瘍である。臨床上は、良性と悪性の中間の悪性度であることを意味する“ Intermediate (locally aggressive, rarely metastasizing) ” に分類される。標準治療は外科的切除・掻把による完全摘出であり、一般に良好な経過を辿ることが多い。しかし、局所再発を繰り返す症例や遠隔転移をきたす症例も一部に存在し、予後不良であることが知られている。このような症例に対して、現時点で確立した薬物レジメンは存在しない。

患者由来細胞株は、前臨床研究や基礎研究の分野で広く用いられてきた。特に、患者数の限られる疾患においては、関連する遺伝子やタンパク質の機能解析を評価し、新たなバイオマーカーや治療標的を同定する上で貴重な研究材料となる。これまでに樹立されたGCTBの細胞株は世界で17株にとどまっており、研究目的に入手が可能な数はより少なく、さらなる新規細胞株の樹立が期待されてきた。今回我々は世界で初めて、術後補助療法後の局所再発病変由来のGCTB症例から患者由来細胞株を樹立することに成功し、NCC-GCTB10-C1と命名した。

NCC-GCTB10-C1の特性評価とこれまでに当研究室で樹立した9細胞株を含む網羅的な薬効評価を行い、GCTBの新規治療薬となる薬剤の同定を目指した。

【方法】細胞増殖アッセイ(Cell counting Kit-8)や細胞遊走・浸潤アッセイ(xCELLigence DP system)、スフェロイド形成アッセイにより、細胞の性質を評価した。これまでに当研究室で樹立された9つのGCTB細胞株を含めた合計10細胞株を対象として、214種の抗がん剤を用いたハイスループットな薬効試験を行った。

【結果と考察】NCC-GCTB10-C1は既存GCTB細胞株と同程度の細胞増殖能と浸潤能を示した。しかし、薬剤への応答性に関しては、既存の原発由来の細胞株とは異なる反応を見せた。従来の原発巣由来の細胞株に対しては、HDAC阻害薬とトポイソメラーゼ阻害薬による強い細胞増殖抑制作用が認められた。特に、ロミデプシン(HDAC阻害薬)とミトキサントロン(トポイソメラーゼ阻害薬)の2剤はより強力な抗腫瘍効果を示し、GCTBに対する新規治療薬として臨床応用が期待される結果となった。一方で、再発病変であるNCC-GCTB10-C1はこれらの薬剤に対する感受性が低いことが明らかとなった。細胞株毎に薬剤応答性が異なる原因としては、放射線治療やデノスマブ投与などの後治療によって、腫瘍の薬剤代謝に関する経路が変化した可能性が考えられた。

我々は再発症例からGCTB細胞株を樹立し、網羅的な薬効試験を含む特性評価を行った。HDAC阻害薬とトポイソメラーゼ阻害薬がGCTBに対する新規治療薬として期待される一方で、再発病変における適切な薬剤選択に関しては更なる検証が必要である。

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礒山 翔

公益財団法人がん研究会 がん化学療法センター 分子薬理部

shRNAスクリーニングによる滑膜肉腫のPI3K阻害剤感受性規定因子探索

礒山翔、玉城尚美、野口豊、吉田陽子、旦慎吾 

 

染色体転座陽性肉腫(TRS)は、発がんに重要な融合遺伝子を有する小児および若年成人に頻発する悪性腫瘍であるが、治療薬が乏しく有望な治療標的の同定が求められている。われわれは、これまでにPI3K阻害剤が滑膜肉腫や粘液型脂肪肉腫などのTRS由来細胞株、Patient-derived cell (PDC)、Patient-derived xenograft (PDX)に対してアポトーシス誘導を伴う高い抗がん効果を示すことから、PI3KがTRSの治療標的として有望であることを報告してきた。本研究では、TRSの一つである滑膜肉腫に対するPI3K阻害剤のアポトーシス誘導メカニズムを解明する目的で、shRNAライブラリーを滑膜肉腫細胞株SYO-1に導入し、PI3K阻害剤処理と非処理の細胞間で増加または減少したshRNAを抽出した。得られたshRNAのうち、発現ノックダウンした際にPI3K阻害剤によるアポトーシス誘導の抑制が顕著に認められる遺伝子として複数のクロマチンリモデリング因子を同定した。興味深いことに、これらの遺伝子の発現をノックダウンすることにより、PI3K阻害剤によって誘導されるBcl2 familyのBIMとPUMAの発現誘導がキャンセルされた。BIMやPUMAの発現ノックダウンによりアポトーシスが抑制されることから、PI3K阻害剤による滑膜肉腫のアポトーシス誘導にはPUMA/BIMの誘導が重要であり、滑膜肉腫ではBIMやPUMAの発現誘導を介してBAF複合体がPI3K阻害剤によるアポトーシス誘導に関与していることが示唆された。

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岩田 秀平

国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野

非胸膜由来の孤立性線維性腫瘍(Solitary Fibrous Tumor: SFT)の世界初の細胞株樹立と特性評価

 

【背景・目的】

孤発性線維性腫瘍(Solitary fibrous tumor: SFT)は、NAB2-STAT6遺伝子の再配列を特徴とする希少な線維芽細胞性の悪性腫瘍(肉腫)であり、WHO classification of tumours で2020年から定義された新しい腫瘍である。SFTの治療は外科的切除が一般的であるが、20-30%では転移や再発をきたし、有効な治療薬はない。患者由来細胞株は治療法開発における重要なツールであるが、これまで樹立されたSFT細胞株は胸膜由来の2株にとどまっており、いずれも入手不可能であるためさらなる新規細胞株の樹立が期待されてきた。今回我々は非胸膜由来のSFTの世界初の患者由来細胞株を樹立することに成功したため、網羅的な薬効試験を含む特性評価の結果を明らかにすることを目的とした。

【方法】

49歳女性の左臀部のSFTを外科的切除し、摘出した腫瘍組織を酵素処理し、患者由来細胞株を樹立した。樹立した細胞株を用いて細胞増殖アッセイ(Cell counting Kit-8)や細胞遊走・浸潤アッセイ(xCELLigence DP system)、スフェロイド形成アッセイにより、細胞の性質を評価した。また、既存抗がん剤221剤のハイスループットな薬効試験を行い、IC-50を算出し増殖抑制効果を調べた。

【結果】

当研究室で非胸膜由来の世界初のSFT細胞株の樹立を試み、樹立に成功した。胸膜由来のSFTの融合遺伝子はNAB2 exon4 - STAT6 exon2が多いが、今回は臀部由来でNAB2 exon6 - STAT6 exon16の融合遺伝子をサンガシーケンスで同定した。薬剤感受性試験の結果、SFTの標準治療薬であるドキソルビシンやイホスファミドは抵抗性を示した。一方で、エリブリン、フォレチニブ、ロミデプシン、チボザニブ、バルルビシンのIC-50値は0.1μM以下と特に高い増殖阻害効果を示した。

【考察】

本研究により非胸膜由来のSFTの新規細胞株の樹立に成功し、細胞株を用いてSFTに奏効する薬剤を見出すことに成功した。SFTは様々なexonのNAB2-STAT6融合遺伝子があり、それぞれに最適な治療法同定のためにも本細胞株は有用であると考える。また本研究で奏効薬剤として同定された薬剤は他の癌ですでに承認されており、SFTの治療への適応拡大が期待できる。SFTの臨床的な多様性を考慮すると今後もさらなる細胞株の樹立とより詳細な研究が求められる。

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江藤 哉子

コーニングインターナショナル株式会社

Corning® マトリゲル添加培地とマイクロキャビティデザインのプレートを用いた膵がんオルガノイドアッセイ

 

オルガノイドは、従来から使用されている細胞株と比較して、患者の複雑性や多様性をよりよく再現するとされており、より高いスループットでより予測性の高い創薬スクリーニングを行うためのオルガノイドモデルの活用が期待されています。このようなモデルを自動化する上で大きな障害となっているのがオルガノイドの培養方法であり、多くの場合、オルガノイドを細胞外マトリックス(ECM)のドーム内で維持しています。本発表では、Corning® マトリゲル基底膜マトリックスを添加した培地を用いて、Corning Elplasia®マイクロプレート内でオルガノイドを維持する方法を紹介します。この方法では、培地中のマトリゲルの濃度を低くすることで粘性の問題を解決できます。さらに、マイクロキャビティを持つElplasiaマイクロプレートで培養することでオルガノイド同士が分離され、かつ均一な焦点面にあるため、認識しやすくなる利点も示します。

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大﨑 珠理亜

国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野

融合遺伝子をもつ肉腫に対する新規治療法開発:患者由来がんモデルを用いたpharmaco-proteomics

 

【背景】肉腫は症例数が極めて少なく、分子生物学的に多彩な組織型が約100種類も存在する。そのため、研究に必要な臨床検体や患者由来がんモデルの入手が困難であり、治療法の開発が遅れている。また、肉腫は一般的に治療標的となる遺伝子変異が少ないことも、治療法の開発が遅れていることの一因である。例えば、滑膜肉腫(SS)はSS18-SSX融合遺伝子により発生するが、融合遺伝子以外に治療法開発に有用な遺伝子異常は報告されておらず、進行症例に対する有効な抗がん薬が存在しない。そこで我々は、肉腫の新規治療法開発に向けて、SSの患者由来がん細胞株を樹立し、その表現型解析とプロテオミクスを組み合わせたファーマコプロテオミクスを行うこととした。

【目的】本研究の目的は、SSに対する新規治療法を開発することである。

【方法】我々は、SS患者の手術検体から6株の細胞株(NCC-SS1-C1、NCC-SS2-C1、NCC-SS3-C1、NCC-SS4-C1、NCC-SS5-C1、NCC-SS6-C1)を樹立した。214剤の抗がん薬からなる薬剤ライブラリーを用いて薬剤感受性試験を行った。DIA質量分析を用いたプロテオーム解析を施行した。

【結果】6株全ての細胞株において、7剤の抗がん薬が低濃度で細胞増殖を抑制した。この7剤には、ALK阻害剤、c-Met阻害剤、HDAC阻害剤が含まれていた。元腫瘍組織と細胞株のプロテオームを比較することで、細胞株に保存された分子シグネチャーを明らかにした。薬剤感受性試験とプロテオーム解析の結果を統合しSSに有効な抗がん剤候補を同定した。

【考察】約200種類もの抗がん剤ががんの治療に用いられているが、肉腫ではわずか数種類しか臨床的有用性が実証されていない。肉腫は症例が少なく新規に抗がん剤を開発しても利潤が期待できない。したがって、適応拡大可能な既存の抗がん剤を見つけることが現実的である。このような研究において、我々が樹立した患者由来がん細胞株は非常に重要な役割を果たす。また、融合遺伝子により発生する肉腫ではゲノム変異が乏しく分子背景が比較的均一であり、少ない症例で有効性が確認された抗がん剤であっても、多くの症例に適用できる可能性がある。今回同定した抗がん剤はSSへの適応拡大の可能性を検討する価値がある。一方、我々の研究にはいくつかの課題がある。第一に、細胞株が元の腫瘍の表現型をどの程度正確に再現しているか、明確にする必要がある。第二に、薬剤感受性試験の結果を動物モデルなど他のがんモデルでも検証する必要がある。第三に、細胞株と元腫瘍組織のプロテオームを比較するにあたり、発現量だけでなく酵素活性やタンパク質相互作用など多面的に評価する必要がある。これらの課題に取り組むことで、患者由来がんモデルを用いた本研究アプローチは、ゲノム変異が乏しく、治療法開発が困難な希少がんに対して有用な治療法を見出すための強力な手段となるであろう。

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後藤 詩織

国立がん研究センター研究所希少がん研究分野

患者由来「肉腫」細胞株樹立における最大の課題への挑戦~二次元電気泳動を用いた肉腫細胞と線維芽細胞の鑑別~

 後藤詩織、小野拓也、大野裕翔、野口玲、近藤格

国立がん研究センター 希少がん研究分野

 

【背景と目的】肉腫は症例が少ない希少がんであり、研究に使用できる臨床検体は入手が困難である。そのため、患者由来がんモデルの樹立は停滞している。具体的には、公的細胞バンクから入手可能な肉腫細胞株の数はきわめて限られている。肉腫には100種類もの臨床像の異なる組織型が存在するが、ほとんどの肉腫組織型において細胞株は入手できない。我々はこの問題を解決するために肉腫細胞株を樹立し配布している。肉腫細胞株を樹立する際に問題になるのが、線維芽細胞の増殖である。肉腫は間葉系由来の悪性腫瘍なので、肉腫細胞と線維芽細胞の鑑別は形態的にも免疫組織学的にも困難である。一方、肉腫細胞は融合遺伝子、点突然変異、コピー数変化などの異常を有しているので、PCR・シークエンス、SNPアレイ、WESにより、線維芽細胞と鑑別できる。しかし、これらのアッセイは多大な時間とコストを要するため、多数の細胞株を樹立する我々のプロジェクトのボトルネックになっている。そのため、肉腫細胞と線維芽細胞を迅速かつ低コストで区別できる方法の開発を試みている。本研究では、「肉腫細胞を線維芽細胞から迅速かつ低コストで区別する手法として自動二次元電気泳動装置Auto2Dが有用である」という仮説の立証を目指した。

【方法】線維芽細胞株7株と粘液性線維肉腫(MFS)細胞株7株を使用した。MFS細胞株はSNPアレイによって線維芽細胞と鑑別した。細胞株から抽出したタンパク質をCy3およびCy5(Cytiba社)で蛍光標識し、Auto2D(メルク社)で等電点と分子量に分離した。泳動後にタンパク質をスポットとして検出し、ProgenesisSameSpots(NonlinearDynamics社) にて定量化した。これらスポットの濃度を元に肉腫細胞と線維芽細胞を分離できるかどうかを、Rを用いた階層的クラスター解析および主成分解析で調べた。

【結果と考察】Auto2Dを用いたところ、744個のタンパク質スポットを得た。これらスポットの濃度を元に細胞株を階層的クラスター解析したところ、7株のMFS細胞株すべてが同一のクラスターに分類された。線維芽細胞においては7株のうち6株(86%)が同一のクラスターに分類された。一方、1株(14%)がMFS細胞株のクラスターに分類された。次いで主成分解析を行ったところ、MFS細胞株と線維芽細胞株は分離される傾向を示した。しかし、階層的クラスター解析と同様、すべての細胞株が明確にMFS細胞株と線維芽細胞株とに区別されなかった。位相差写真像ではMFS細胞株と線維芽細胞株は全く区別がつかないことを考えると、複雑で高価な遺伝子解析なしでおおよその区別が可能となったことは大きな成果である。Auto2Dを用いた二次元電気泳動法の精度を高めたり、特定のタンパク質に焦点を当てた解析をすることにより、患者由来肉腫細胞株の樹立における最大の課題である「腫瘍細胞と線維芽細胞の鑑別」が解決できる可能性が示唆された。

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近藤 誠

東京大学生産技術研究所

Tumor-microvessel on-a-chipによるがん細胞クラスターの血管侵入現象の解析

 近藤誠1, 池田行徳1, 末弘淳一2, 大島浩子3,

高橋和樹1,4, 渡部徹郎4, 大島正伸3, 松永行子1

1. 東京大学 生産技術研究所

2. 杏林大学 医学部

3. 金沢大学 がん進展制御研究所

4. 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

 

【目的】血中循環腫瘍細胞(CTC: Circulating tumor cell)クラスターは、高悪性度腫瘍患者の血液サンプルからしばしば検出され、腫瘍の転移や予後不良と関連している。しかしながら、癌細胞クラスターが原発性腫瘍から血管の壁を越えて放出されるメカニズムは不明である。本研究では、遺伝的背景の異なる腫瘍オルガノイドを微小血管の周囲に配置することにより、腫瘍の浸潤を可視化する三次元in vitro培養系を開発し、その血管浸潤の様子の観察と、そのメカニズムを解析した。

【方法】転移性の異なるマウス腸腫瘍由来細胞を用いた。ApcΔ716 (A),KrasG12D (K),Tgfbr2−/− (T),Trp53R270H (P)の変異の組み合わせによる遺伝子型から、APとAKTPの細胞を用いた。三次元腫瘍微小血管モデルは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のチップ(25 mm × 25 mm × 5 mm:幅×長さ×高さ)を使用し、中和コラーゲン溶液(2.4 mg/mL)と混合した腫瘍オルガノイドをデバイスの中央チャンバーに加え、直径200 μmの針をチップに挿入し、37℃で45分間インキュベートしゲルを固めた後に針を引き抜くことで、コラーゲンゲルに管腔構造を作製した。ヒト臍帯静脈内皮細胞を管腔内に播種し、培養の継続はEGM-2培地でおこなった。形態観察のため、Ulex Europaeus Agglutinin-I  (UEA I) レクチンによる内皮の可視化、F-actinのphalloidinによる染色、SM22α染色をおこなった。さらに、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)及びアクチビン遺伝子群の発現解析及び、TGF-βとアクチンビンシグナルの阻害実験をおこなった。

【結果と考察】AKTP遺伝子型のがんオルガノイドは、APに比べ、高い浸潤能を持つこと、三次元微小血管をハイジャックすることを、タイムラプス観察で確認した。また、この浸潤能は、三次元微小血管との共培養により有意に増悪し、著しい血管側の形態変化も観察され、内皮間葉転換(EndoMT: Endothelial-mesenchymal transition)マーカーのSM22αが高発現していた。さらに、微小血管におけるEndoMTを伴う腫瘍細胞の浸潤には、腫瘍細胞におけるTGF-βの発現と、それに続く内皮におけるアクチビンの発現誘導が重要であることが示された。今回我々が開発したTumor-microvessel on-a-chipシステムにより、微小血管周囲のコラーゲンゲル内でのがんクラスターの集団移動、血管共役、CTCクラスターの放出など、クラスター単位での腫瘍浸潤を可視化することができた。本システムは、CTCクラスターを標的とした腫瘍転移の治療戦略の開発に有用であると考えらえる。

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西東 洋一

熊本大学大学院先端科学研究部 生命分子・医用材料

粒子を貪食したマクロファージによる炎症を用いた新規がん治療戦略の開発

西東洋一1、西村洋祐1、藤原章雄2、中西義孝3、中島雄太1,4,5

 

1) 熊本大学大学院先端科学研究部 生命分子・医用材料,

2) 熊本大学大学院生命科学研究部 細胞病理,

3) 熊本大学大学院先端科学研究部 マルチスケールプロセス,

4) 熊本大学 国際先端科学技術研究機構(IROAST), 5) JST創発研究者 

 

【目的】マクロファージ(Mφ)は代表的な貪食細胞であり、異物・病原体に対しては炎症を誘導し(M1活性化)、創傷・組織欠損では抗炎症と組織修復を誘導する(M2活性化)。腫瘍環境においては、腫瘍浸潤Mφ(TAM)が抗腫瘍免疫を抑制し腫瘍増殖を促進する(M2活性化)。一方で、人工関節等の体内留置ではMφが人工関節摩耗粉を貪食し強力で持続的な炎症反応を誘導する(M1活性化)。この人工関節摩耗粉による炎症の抑制を目的に行なった我々の解析では、特定径の粒子がMφに強力な炎症を誘導することがわかった。そこで、当該径の粒子をMφに貪食させ、炎症を誘導することで腫瘍細胞を傷害する新しいがん治療戦略が可能ではないかと考え、本解析を行った。

【方法】径0.1〜20μmで球形のpolymethylmethacrylate(PMMA)粒子を培地に混和し、マウスMφ細胞株(RAW264)、マウス腹腔Mφ(mPM)及び健常ヒト単球由来Mφ(hMDM)に添加・貪食させ、24時間後の培養上清中のTNFαをELISAで測定し、各Mφに最もTNFαを分泌させる粒子径を選定した。それぞれのMφに当該粒子を添加し、24時間後に培養上清を回収した。次に、各上清を肺癌細胞株(マウス:LLC, ヒト:A549)に添加し、24時間後に腫瘍細胞株の増殖と細胞傷害をWST8 assay、LDH assayで解析した。また、粒子の腫瘍細胞への直接作用を確認するため、当該粒子を各肺癌細胞株に直接添加し、24時間後にWST8 assay、LDH assayで解析した。

【結果と考察】貪食したMφにTNFαを最も分泌させる粒子径は、RAW264では0.43μm, mPMとhMDMでは0.8μmで、3種細胞間で近接していた。当該粒子を貪食したMφの培養上清は、肺癌細胞株へ添加(0.43μm→RAW264;培養上清→LLC、0.8μm→hMDM;培養上清→A549)することで有意な細胞傷害(LDH assay)・増殖抑制効果(WST8 assay)がみられた。しかし、粒子を肺癌細胞株に直接添加しても同様の効果はみられなかった。以上から、当該径の治療用粒子を作製し、腫瘍局所のTAMに貪食させることができれば、TAMを炎症性(M2→M1活性化)へ誘導することで腫瘍増殖促進的な作用を解除し、抗腫瘍効果の発揮させる治療戦略が有効であるという基礎的知見を得た。現在、担癌マウスのin vivo投与モデルの解析を進めている。

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佐藤 友美

福島県立医科大学・基礎病理学講座/医薬基盤健栄研、プロテオーム

大腸がんオルガノイドを用いた転移モデルの網羅的リン酸化変動解析による治療標的探索

佐藤 友美1,2、井上 正宏3、長山 聡4,5

朝長 毅2、足立 淳2

1福島県立医科大学・基礎病理学講座、2医薬基盤健栄研、プロテオーム

3京大・院医・クリニカルバイオ、4がん研・有明病院、5京大・医 

 

【背景・目的】がんは現在も国内における死亡原因の第一位であり、その克服へ向けた分子メカニズムの解明及び治療法開発が望まれているが、死亡につながる遠隔転移の分子機構は未解明の部分が多い。本研究では遠隔転移源となる体内循環がん細胞塊で確認された転移確立過程における細胞塊内極性転換現象を再現できる大腸がん由来のオルガノイド(Okuyama, Am. J. Pathol., 2016, Kondo, PNAS, 2011) をモデルとして用い、転移確立過程におけるリン酸化変動を網羅的に解析することで、転移確立過程の分子機構を解明することを目指し、新規創薬標的の探索と評価を行った。

【方法】CTOS法で調整した大腸がん由来オルガノイドを浮遊培養からゲル包埋培養へ移行させることで転移過程における体内循環状態から、転移先への生着過程のモデルとした。ゲル包埋移行後1時間で変動したリン酸化状態をリン酸化プロテオミクスにより網羅的に同定した。In Silicoにおいてリン酸化変動タンパク質のOntology解析、キナーゼ活性予測を行い、活性化が予測されたキナーゼに対して阻害剤を用いた評価を行った。

【結果と考察】ゲル包埋培養1時間のサンプルから13603サイトのリン酸化サイトを同定した。そのうち2倍以上有意にリン酸化状態が変動したサイトは485タンパク質、764サイトであった。リン酸化変動タンパク質のOntology解析はAdherens junctionやTight junction関連のタンパク質でリン酸化が大きく変動していることを示しており、浮遊状態でオルガノイド表面に形成されているアピカル膜が接着確立過程で消失する現象(Onuma, J. Pathol., 2021, Okuyama, Am. J. Pathol., 2016) に一致していると考えられた。

この過程で活性変動するキナーゼについて予測した結果から、受容体型チロシンキナーゼ RTK_Xに着目した。RTK_Xの阻害は、ゲル包埋時にECMとの接着確立に伴うオルガノイド表面アピカル膜の消失と内部極性の転換現象を阻害し、増殖については体内循環がん細胞塊モデルである浮遊培養状態、腫瘍組織モデルであるゲル包埋状態共に同等の阻害効果を示した。

これらの結果からRTK_Xの阻害は転移源である体内循環がん細胞塊と腫瘍組織に対して同等の増殖阻害効果を示し、転移確立過程において足場依存的増殖への切り替わりにつながるECMとの接着確立を阻害することが期待できると考えられた。このように患者検体由来オルガノイドを用いた微量サンプルからもリン酸化プロテオミクスを用いた網羅的リン酸化変動解析により有効な創薬標的の発見につながる可能性が示唆された。

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塩田 よもぎ

東京農工大学大学院農学研究院/国立がん研究センター希少がん研究分野

比較腫瘍学による新しい治療法開発に向けた試み

イヌ肺がんオルガノイドにおける分子異常と分子標的薬の同定

 

 【背景】新しい抗がん剤は例外なく高額であることが社会的な問題になっている。抗がん剤の臨床試験の成功率が極端に低く、開発費が膨大にかかることがその原因である。効率のよい臨床試験のためには前臨床試験で使われるがんモデルが重要である。マウスを用いた薬効評価試験と臨床試験の結果が一致しないことが指摘されている。ヒトの臨床試験の結果を予測できる優れたモデル系を開発することが求められている。我々は前臨床試験のモデルとしてイヌに着目している。イヌとヒトはゲノム配列や生活環境が類似しており、実際にイヌのがん治療ではヒトに用いられる抗がん剤が使用されている。一方、ヒトとイヌにおける薬効と分子背景の類似性はごく一部の分子標的薬についてのみ調べられており、さらなる研究が必要である。

【目的】分子標的薬の薬効およびその分子背景をイヌにおいて明らかにし、イヌのがんモデルとしての有用性を検討すること。

【方法】肺腺がんと診断された4頭のイヌから手術によって得られた腫瘍・正常組織を使用した。摘出組織からオルガノイドを樹立し、RNA-seqによりmRNAの発現解析を行った。GSEAにより活性亢進している分子パスウェイおよびそれを抑制する分子標的薬候補を同定した。同定した分子標的薬候補を用いてオルガノイドおよびゼノグラフトの増殖および分子パスウェイの抑制効果を調べた。

【結果】RNA-seqを用いた解析から、肺がんオルガノイドでMEKパスウェイが亢進していた。ヒト臨床で使われるMEK阻害剤・トラメチニブは肺がんオルガノイドの生存率を濃度依存的に減少させた。そしてMEK下流分子(ERKリン酸化、c-Myc発現)を抑制した。肺がんオルガノイドのゼノグラフトにおいてトラメチニブは顕著な腫瘍縮小効果を示した。

【考察】トラメチニブはヒト肺がんの治療おいて、多剤併用療法で使用されている。一方、イヌ肺がんでは、単剤での有効性が示唆された。標的となる分子の下流パスウェイについては、予測通りイヌ肺がんオルガノイドにおいてトラメチニブで抑制された。イヌとヒトの類似性および相違性については、引き続き検討が必要である。オルガノイドは薬効評価、スクリーニング、分子機能解析に有用であり、引き続きその有用性を高めていきたい。今回は肺がんを一例として提示した。同様の研究をさまざまながん種・治療薬において展開し、前臨床試験のモデルとしてのイヌの有用性を確立する計画である。

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杉野 友亮

三重大学大学院医学系研究科 腎泌尿器外科

筋層浸潤性膀胱癌に対するシスプラチンの薬効評価を目的としたゼブラフィッシュ異種移植モデルの基盤的開発

杉野 友亮1、保 欣1、宮地 志穂里1、関戸 翔1,2、

景山 拓海1、佐々木 豪1、田中 利男3、高野 敬志4、中山 憲司5、孫 楽6、村川 泰裕2,6、井上 貴博1

1三重大学大学院医学系研究科 腎泌尿器外科  2京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点  3三重大学大学院医学系研究科 システムズ薬理学  4北海道立衛生研究所 生活科学部  5新潟医療福祉大学 生物医科学分析研究センター  6理化学研究所 生命医科学研究センター 理研-IFOMがんゲノミクス連携研究チーム6 

 

【目的】筋層浸潤性膀胱癌の標準治療はシスプラチンベースの術前化学療法(NAC)後の膀胱全摘除術である。しかしながらNACの奏効率は約40%にとどまり、効果を予測するバイオマーカーの開発が求められている。我々は膀胱癌における新規バイオマーカーとして、ゼブラフィッシュ胚を用いた患者由来異種移植モデル(zPDX)を開発し、その妥当性について検討した。

【方法】膀胱癌細胞株をゼブラフィッシュ胚に移植し、薬効判定可能な実験系を確立する(STEP1)。患者由来組織を用いてマウス異種移植モデル(mPDX)を樹立し、zPDXとmPDXの薬効を比較する(STEP2)。筋層浸潤性膀胱癌患者に由来する膀胱癌組織をゼブラフィッシュに移植し、zPDXでの薬効と実際のシスプラチンの効果や臨床転帰を比較する(STEP3)。

【結果と考察】STEP1ではゼブラフィッシュへの移植手技を確立し、共焦点定量イメージサイトメーターを用いた画像評価系を確立した。シスプラチンの投与量についてはゼブラフィッシュ胚内のプラチナ濃度を測定することでその妥当性を確認した。膀胱癌細胞株へのシスプラチン感受性はin vitroとzPDXで一致しており、ホールマウント免疫染色でもその結果を支持するデータが得られた。STEP2ではmPDXに対して行ったシスプラチン投与試験の結果と、mPDX由来腫瘍をゼブラフィッシュに移植した際の薬効判定結果が完全に一致した。STEP3では患者由来組織をいったん凍結後にゼブラフィッシュに移植することに成功しており、今のところ2例のみではあるが、患者の臨床経過とも一致する結果が得られている。将来的には多施設共同研究とすることでさらに多くの症例で比較検討を行い、遺伝子発現解析による裏付けも含めてzPDXモデルの妥当性を示したいと考えている。

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田口 友香

防衛医科大学校 医学科 生理学講座

紫外線が癌細胞に与える影響:

細胞外小体エクソソームに着目して

 

 【背景・目的】

癌細胞に紫外光(UV)を照射するとアポトーシスが誘導される。更に、これらの細胞の培養液上清をUVが照射されていない細胞に添加しても、同様にアポトーシスが誘導される現象(bystander effects)が確認されている。この事象から、UVに暴露した癌細胞は、何らかの細胞増殖抑制因子を放出していると推定されるが、その具体的なメカニズムは未だ明らかでない。そこで本研究は、細胞から放出される細胞外小胞(特にエクソソーム:粒径約100nmのもの)がbystander effectsの機序に関与している可能性に注目し、その役割を明らかにすることを目的とした。

【方法】

本研究では、ヒト扁平上皮癌細胞(HSC-1)とヒト不死化表皮正常ケラチノサイト(PSVK-1)を用いて以下の実験を行った。

1. 培養されているHSC-1にUVを照射し、照射時間の多寡による細胞生存率の違いを吸光度計を用いて測定した。

2. UVB(311nm)が照射されたHSC-1細胞の培養液上清およびUVBが照射されていないHSC-1細胞の培養液上清をそれぞれ採取し、それぞれよりエクソソームを抽出・精製した。そして、採取したエクソソームおよびエクソソームを除いた上清を別のHSC-1細胞もしくはPSVK-1細胞に添加し、細胞生存率の変化を観察した。

【結果】

1. UVの照射時間が増加するにつれて、細胞生存率は減少し、照射時間10分で細胞生存率が約70%になった。照射20分では20%まで低減し、それ以上の時間照射しても、生存率はほぼ変わらなかった。

2. UVBが照射(20分)されたHSC-1細胞から精製したエクソソームを添加したHSC-1細胞の生存率は、UVBが照射されていないHSC-1細胞から精製したエクソソームを添加したHSC-1細胞の生存率よりも有意に増加した。

3. UVBが照射(20分)されたHSC-1細胞から精製したエクソソームを添加したPSVK-1細胞の生存率は、UVBが照射されていないHSC-1細胞から精製したエクソソームを添加したPSVK-1細胞の生存率よりも有意に減少した。

【考察】

本研究より、UVB照射により癌細胞から放出されるエクソソームは、癌細胞と正常細胞に対して異なる作用を示すことが明らかになった。この差異は、エクソソームが含むシグナル伝達因子が細胞種特有の受容体を活性化するためと推測される。癌細胞由来のエクソソームが癌細胞の生存を促進し、正常細胞を抑制することは、癌細胞が周囲の環境を制御しようとする戦略の一環と考えられる。この知見は、エクソソームを標的とした新たな癌治療法の開発への道を開く可能性がある。

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竹内 朋代

筑波大学附属病院つくばヒト組織バイオバンクセンター

多様なニーズに対応した生体試料の分譲

竹内朋代, 伴瀬瑛理佳, 坂本規彰, 松原大祐, 西山博之

筑波大学附属病院つくばヒト組織バイオバンクセンター 

 

筑波大学附属病院つくばヒト組織バイオバンクセンターは、院内の診療科と連携して肺癌や大腸癌等の悪性腫瘍組織を中心に手術や検査の残余検体を臨床情報と紐付けて研究用に収集・管理している。2009年の収集開始時より約12000症例の組織及び血液検体を保管しており、学内外の研究者に提供され利用されている。検体は凍結またはホルマリン固定パラフィン包埋ブロックとして保存されており、主に遺伝子解析や免疫組織化学染色による発現解析等に利用されている。しかし、患者由来ゼノグラフトの作製やオルガノイド培養等、細胞を生きた状態で研究利用することも多く、非凍結試料入手の要望が多く挙げられている。そこで、当センターでは保存している凍結検体やFFPE検体以外に利用者の要望に応じた形で試料を調整して提供する新しい仕組み(オンデマンド型分譲システム)を構築し、2017年より試料の分譲を開始した。オンデマンド型分譲にあたっては、利用者に希望する試料について大きさ、形状、除外基準等の詳細をヒアリングした上で、試料採取に携わる診療科との面談を行い実施の可否を最終決定する。このシステムは特に製薬企業を中心に利用されており、開始から6年間で非凍結組織や体腔液等の試料を100例以上、外部機関へ提供した。さらに最近では細胞株等の試料を使用して得られた成果物の二次利用、産業利用に対する要望が多く寄せられている。現在、当センターではこのような生体試料の新しい利用法に対応できる仕組み作りを進めており、その取組みについても紹介する。

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巽 康年

千葉県がんセンター研究所 発がん制御研究部

千葉県がんセンター研究所 小児難治がん研究室

クルクミン類似体によるヒストンアセチル化抑制を伴った骨肉腫細胞に対する抗腫瘍効果

 巽 康年1,2, 増田 達哉1, 渡部 隆義1, Rohmad Yudi Utomo3,4, Ummi Maryam Zulfin3,4, Edy Meiyanto4, 尾崎俊文1, 末永 雄介3, 上久保 靖彦1

1.   千葉県がんセンター研究所 発がん制御研究部

2.   千葉県がんセンター研究所 小児難治がん研究室

3.   千葉県がんセンター研究所 進化腫瘍学研究室

Cancer Chemoprevention Research Center (CCRC), Faculty of Pharmacy, Universitas Gadjah Mada

 

骨肉腫は、主に小児から青年期にかけて発症する最も代表的な悪性の骨腫瘍である。がんの抑制に寄与する転写調節因子のRB1およびTP53の異常が、その発がんドライバーであるが、これらを標的とした治療法はない。一方でp300、CBP、PCAFなどのヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)は、ヒストンのアセチル化を介して細胞増殖や腫瘍形成を含む多彩な生物学的プロセスを調節している。

われわれは、骨肉腫患者においてp300の高発現が予後不良となること、骨肉腫細胞株におけるp300のノックダウンが細胞増殖を抑制してアポトーシスを誘導することを見出した。p300に対する阻害剤としてウコンの根茎から抽出される天然化合物のクルクミンが知られるが、本研究ではその類似体(PGV-1およびCCA-1.1)に着目し、これら化合物によるp300を標的とした骨肉腫の治療戦略が有効であるか検討した。ドッキングシミュレーション解析から、クルクミン類似体がp300のHATドメインに結合する可能性を発見した。実際にこれら化合物は、in vitroでp300のHAT活性を効率的に阻害すること、骨肉腫細胞株に対してヒストンH3のLys-27のアセチル化の抑制とSTAT3のTyr-705のリン酸化の抑制を伴ってアポトーシスを誘導することを明らかにした。さらに、受精鶏卵の奨尿膜(CAM)に骨肉腫細胞株を移植するCAMモデル実験系を用いて、in vivoにおけるクルクミン類似体の抗腫瘍効果を評価した。その結果、PGV-1およびCCA-1.1がCAM上に移植した骨肉腫細胞株の増殖を著しく阻害することを見出した。

以上の結果より、クルクミン類似体のPGV-1およびCCA-1.1を用いた治療戦略が、骨肉腫患者に対する効果的な治療法となりうると提唱した。

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鶴岡 里彩

徳島大学大学院創成科学研究科 生物資源学専攻

鶏卵がん移植モデルを用いた

免疫チェックポイント阻害薬の効果検証

 

 【背景と目的】がん免疫療法において免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の有用性は高く、多くのがんに対する新規治療法として期待されている。しかしICIの有効例を予測する診断法はなく、患者由来のがん組織を用いた個別化医療の基盤研究を行うことが急務である。鶏卵を用いたがん移植では抗がん剤の治療効果について様々な報告があり応用されているが、一方で免疫チェックポイント阻害薬を用いた評価系は確立していない。今回、我々は低コストかつがん移植が簡便な鶏卵モデルに着目し、免疫チェックポイント阻害薬の効果予測する実験モデルの樹立を目的とした研究を行っているので報告する。

【方法】転卵開始11日目の褐色鶏卵(有精卵)の漿尿膜上に膀胱癌細胞株UM-UC-3、腎癌細胞株786-O、患者由来の手術検体(CAM-PDX;chicken egg chorioallantoic membrane- patient-derived xenograft)を移植した。転卵開始15日目の鶏卵にCell Tracker Green CMFDA Dyeで蛍光標識したヒト末梢血単核細胞(hPBMC)を2×105cells/eggで血管内投与し、転卵開始16日目に抗PD-1抗体Nivolumabを2.0mg/kgの条件で血管内の血管内に投与した。転卵開始18日目に形成された腫瘍組織を摘出し、腫瘍重量及び蛍光観察、human CD3免疫染色法及びフローサイトメトリー法によって解析し評価した。

【結果】

 転卵開始15日目の鶏卵へのhPBMC移植により、鶏卵腫瘍へのhPBMCの到達が見られた。また、hPBMC移植鶏卵へのNivolumab投与でhPBMCの腫瘍内浸潤が見られた。UM-UC-3及び786-Oでは未処理群と比較し腫瘍重量が低下した。また患者由来手術検体を移植したCAM-PDXではNivolumabの効果がみられる症例とみられない症例があった。

【考察】

hPBMC移植鶏卵モデルでのNivolumabの抗腫瘍効果が示唆された。免疫チェックポイント阻害薬の新規スクリーニングモデルとして有用か検討中である。

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豊田 優

防衛医科大学校 分子生体制御学講座/東京大学医学部附属病院 薬剤部

ヒトのビタミンC輸送体による尿酸輸送:分子特性の特定および新規実験系開発に向けた応用

豊田 優1, 2、宮田 大資2、松尾 洋孝1, 3、高田 龍平2

1防衛医科大学校 分子生体制御学講座、2東京大学医学部附属病院 薬剤部、

3防衛医科大学校 防衛医学研究センター バイオ情報管理室 

 

【目的】 生理的条件下でアニオンとして存在する尿酸およびビタミンC(VC)は、受動的に細胞膜を透過できない。そのため、これらの物質の体内動態制御には各物質を基質とする膜輸送体が必須となるが、その全容は依然として不明である。これまでに我々は、SLC2A12が尿酸のみならずVC輸送体としても生理的に重要な役割を担うことを明らかとしてきた。VCの経細胞輸送過程において、排出を担うSLC2A12と対となり、細胞への取り込みを担う分子としてSodium-dependent vitamin C transporter 2(SVCT2/SLC23A2)が知られていることを踏まえ、SVCT2が尿酸輸送体としても機能する可能性を検討することを本研究の目的とした。

【方法】 SVCT2を一過的に発現する哺乳類培養細胞を用いて、放射標識尿酸を利用したin vitro尿酸輸送実験を行った。新たに見出された尿酸輸送体としてのSVCT2の分子特性を利用して、哺乳類培養細胞からの尿酸排出活性を測定するための新たな実験系を構築した。

【結果と考察】 SVCT2発現細胞において、非発現細胞よりも高い尿酸取り込み活性が認められた。この違いは、実験時の培地からNa+を除いた場合には認められなかった。すなわち、SVCT2がNa+依存的な取り込み型の尿酸輸送体であることが新たに見出された。SVCT2による尿酸輸送のKm値は3.86 mMと算出され、ヒトの血液中における生理的な尿酸濃度域ではSVCT2による尿酸輸送は飽和しないことが明らかとなった。ただし、SVCT2の尿酸輸送に関するVCのIC50値は37 μMと算出され、SVCT2による尿酸輸送は血液中のVC(健常者で数十~100 μM)による影響を受けうる可能性が示唆された。次に、新規実験系の検討においては、ABCG2(既知の尿酸排出輸送体)を陽性対照としてSVCT2と共発現させた。SVCT2を導入したヒト由来の培養細胞(尿酸分解酵素をもたない)に放射標識尿酸を十分にプレロードした後、Na+非含有バッファー(導入したSVCT2が機能しない条件)に切り替え、細胞内からバッファー中に放出された放射活性を経時的に測定した。その結果、ABCG2共発現細胞では、SVCT2のみを導入したコントロール細胞よりも高い尿酸排出活性が認められた。今回構築することに成功した尿酸排泄活性測定系は、未知の排出型尿酸輸送体の探索やその機能評価などに応用できるものと期待される。

【参考文献】 Toyoda, Miyata, Shigesawa, Matsuo, Suzuki, Takada; J Biol Chem. 2023, PMID: 37390985

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野口 玲

国立がん研究センター研究所希少がん研究分野

大腸がんの個別化医療に向けての薬剤探索:網羅的キナーゼ活性解析と薬剤感受性試験を用いて

 野口玲1)、安達雄輝1)、小野拓也1)、吉松有紀2)、 

佐々木一樹3)、近藤格1)

1) 国立がん研究センター研究所希少がん研究分野、2) 栃木県立がんセンター研究所、3) 佐々木研究所附属佐々木研究所ペプチドミクス研究部

 

【背景・目的】大腸がんは分子背景が多種多様であり、単一の疾患とはとらえ難いため、症例それぞれに対応した治療を行う必要がある。昨今、大腸がんの分子背景を解明するために、治療標的候補の遺伝子変化を同定するべくゲノム解析が行われているが、同定された変化に対応する薬剤が必ずしも奏効するわけではない。さらに、大腸がんの個別化医療を行うために、症例の腫瘍組織を用いて薬剤感受性試験を行い、薬剤を同定するのが理想的であるが、多種類の抗がん剤を試すには腫瘍量が大量に必要であり、現実的には不可能である。すなわち、大腸がんの治療薬の探索には、ゲノム解析や腫瘍組織を用いた薬剤感受性試験とは異なるアプローチを行う必要がある。そこで我々は、大腸がんの個別化医療に向けた薬剤探索を行うために、3段階のアプローチを考えた。❶ゲノム解析の代わりにキナーゼ活性解析で治療標的を同定する ❷腫瘍組織の薬剤感受性試験の代わりに細胞株を用いて薬剤感受性試験を行い、薬剤を探す ❸キナーゼ活性異常と薬剤感受性が相関するバイオマーカーを探す このアプローチにて、大腸がんの治療標的・標的薬剤・薬剤応答予測バイオマーカーを同定することを目的とした。

【方法】6種類の大腸がん細胞株、16症例の大腸がんの腫瘍とペアの正常組織において、三次元ペプチドアレイを用いて、網羅的キナーゼ活性解析を行った。腫瘍と正常組織の基質ペプチドシグナル値を比較し、腫瘍特異的なキナーゼの推測をKinase-substrate enrichment analysis(KSEA)で行った。FDA承認されたチロシンキナーゼ阻害薬60剤を用いて、細胞株において薬剤感受性試験を行った。キナーゼ活性プロファイルと薬剤感受性データを統合し、標的キナーゼと対応するキナーゼ阻害薬を同定し、薬剤応答について調べた。

【結果】網羅的キナーゼ活性解析から181基質ペプチドのシグナル値が得られた。KSEAを行い、43キナーゼを推定した。正常組織に比較して、VEGFR1、PDGFRB、JAK3、SYK、MAP2K4、INSRが有意に腫瘍組織で活性化していた。大腸がん正常・腫瘍組織・大腸がん細胞株から得られた基質ペプチドは、細胞株は正常組織に比べてより腫瘍組織と相関が高かった。細胞株の薬剤感受性データとキナーゼ活性プロファイルを統合したところ、EGFRのキナーゼ活性は3種類のキナーゼ阻害薬の薬剤感受性において高い相関関係を示した。

【結論】腫瘍組織のキナーゼ活性プロファイルは細胞株に保持されていることを示した。また細胞株のキナーゼ活性プロファイルと薬剤感受性データを統合することで、チロシンキナーゼ阻害薬の薬剤応答予測バイオマーカーを同定できた。我々の統合的なアプローチは個別化医療に有用な薬剤応答予測バイオマーカーを同定し、キナーゼ活性プロファイルの潜在的な可能性を示した。

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野原 悠希

防衛医大 分子生体制御学

膜輸送体ABCG2の遺伝子多型が閉経前後の女性の血清尿酸値上昇に及ぼす影響

野原悠希1、中山昌喜1、三好優香2,3、中島宏1,3、

橋本逸美3、河村優輔1、清水聖子1、豊田優1、

大西まなみ1、花村隼1、田村高志4、永吉真子4、

上野美紀5、早野貴美子6、角田正史3、若井建志4、

四ノ宮成祥1、松尾洋孝1,7

1防衛医大 分子生体制御学、2海上自衛隊 潜水医学実験隊、3防衛医大

衛生学公衆衛生学、4名古屋大学 予防医学教室、5防衛医大 防衛看護学、

6防衛医大 地域看護学、7防衛医大 防衛医学研究センター バイオ情報管理室 

 

【目的】血清尿酸値を上昇させる代表的な因子として性別・肥満・飲酒・年齢がある。加えて、膜輸送体ABCG2におけるQ126XやQ141Kなどの遺伝子多型は、ABCG2の尿酸排泄機能を低下させることで、尿酸値が上昇する原因となる。閉経も尿酸値上昇の原因として知られるが、日本人において閉経に着目してABCG2機能低下の影響を評価した研究はない。本研究では、日本人の大規模健康診断データを用いて、これら2つの多型から推定されるABCG2機能低下が、閉経前後で尿酸値及び集団全体の高尿酸血症(尿酸値 > 7.0 mg/dL)の発症に与える影響について評価した。

【方法】日本人検診受験者である9,096名(男性4,778名、女性4,318名)を対象とした。女性については閉経状況が明らかな4,270人を閉経前と閉経後に分け評価した。これらの集団に対し、閉経(女性のみ)・肥満・飲酒・年齢が個人の血清尿酸値に及ぼす影響を評価するため、重回帰分析を行いその回帰係数の比を比較検討した。集団全体における高尿酸血症発症への影響の評価には、疫学的指標のひとつである人口寄与危険割合 (population attributable fraction, PAF)を用いた。

【結果・考察】遺伝要因であるABCG2多型は閉経前後の両集団で尿酸値を上昇させ、その影響は環境要因とは独立していた。多型による「ABCG2機能の1/4低下」は、尿酸値の増加分として、男性で0.212 mg/dl、閉経前女性で0.163 mg/dl、閉経後女性で0.132 mg/dlに相当した。さらに、遺伝要因であるABCG2多型のPAFは他の環境要因のPAFと比較して高値であり、特に閉経前女性の高尿酸血症の原因の45.8%は遺伝子多型によることが明らかになった。以上より、遺伝要因であるABCG2多型は個人・集団の両方において環境要因に匹敵、あるいは環境要因よりも大きいことが明らかになった。本研究から、生活習慣の改善掲示やゲノム個別化医療・予防への応用が期待できる。

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林 雅人

栃木県立がんセンター

内視鏡検体を用いた患者由来胃癌細胞株の樹立と有効薬剤の検索~新規治療法の開発を目指して~

林 雅人1)、野口 玲2)、大崎 珠里亜2)、安達 雄輝2)、

岩田 秀平2)、佐々木 一樹1)、近藤 格2)、吉松 有紀1)

1)   栃木県立がんセンター 2) 国立がん研究センター 希少がん研究分野

佐々木研究所付属杏雲堂病院 ペプチドミクス研究部 

 

【背景】胃癌の予防・治療はここ十年で急速に発展してきたが、進行胃癌の予後は未だに不良である。切除可能進行胃癌の標準治療は手術+術後補助化学療法であるが、術前化学療法の研究が近年盛んである。術前化学療法の有用性を示唆する臨床試験があるが、対象によっては有用性が示されていない。術前化学療法のメリットは、腫瘍縮小を図り、予後の改善を図ることだが、デメリットとして、薬剤抵抗性により逆に予後悪化を招く可能性が挙げられる。この点から、薬剤感受性を事前に予測することは予後改善に重要と思われる。今回、われわれは治療前の内視鏡検査の際に採取した胃癌の生検検体から患者由来胃癌細胞株樹立を試み、薬剤感受性試験を実施したため報告する。

【目的】内視鏡生検検体から患者由来胃癌細胞株を作成し、薬剤感受性試験により、患者個々の薬剤感受性を推定する。

【方法】精査内視鏡の際に、研究目的で生検した腫瘍部分から得られた検体を2分割して片方を培養し、患者由来胃癌細胞株を作成した。培養はDulbecco’s Modified Eagle Medium/Nutrient Mixture F-12に非働化ウシ胎児血清を添加したものを基礎培地として使用した。基礎培地に 抗菌薬(penicillin/streptomycin), 増殖因子としてhydrocortisone, bFGF, EGF, insulin, KBM, Y-27632を添加した。増殖因子の添加は最初の1回とし、3日ごとに継代を実施した。Single nucleotide polymorphism (SNP) arrayを用いてコピー数多型(CNV)やヘテロ接合性の喪失(LOH)などの異常を検出し、正常細胞と癌細胞の区別をした。214種類の抗癌剤を用いて各々の細胞増殖抑制率を計測し、上位24剤においてIC50値を計測した。得られたIC50値をGenomics of Drug Sensitivity in Cancerが提供する情報等と比較し、有効薬剤の推定を行った。

【結果と考察】81歳男性、胃癌、poorly differentiated adenocarcinoma, LMU cType3, cT4aN3M1(HEP, PER) cStageIVBより得られた生検検体から胃癌細胞の樹立に成功した。IC50値が1µM以下だった薬剤は10種類あった。中でもFGFR阻害剤であるErdafitinibのIC50値は0.083µMであり、既存情報ではFGFR阻害剤の最低IC50値が0.114µMであったころからErdafitinibは本症例において有効である可能性が示唆された。今後、このような事例を増やし、in vitroのデータと臨床情報を比較解析し、治療方針を決定できるin vitro化学療法感受性試験の検査系を開発したい。また、この方法により、胃癌への適応拡大が可能な抗がん剤を同定できると考えている。

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藤原 章雄

熊本大学大学院生命科学研究部

リンパ節洞マクロファージを標的とした天然化合物の抗腫瘍作用の評価

藤原章雄、穴見俊樹、白石大偉輔、入來豊久、菰原義弘

熊本大学大学院生命科学研究部 

 

【目的】

近年、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)はがん治療を革命的に変えたことは周知の事実である。しかしながら、ICIにおいても有効性を示す患者が限られているため、併用療法を含む新しい治療戦略の確立が望まれている。ICIで治療された患者において、浸潤するCD8陽性細胞性Tリンパ球(CTL)の豊富さは高い奏功率と関連していることがよく知られています。所属リンパ節(DLN)は、がん免疫サイクルの初期段階を担う重要な臓器として知られており、特に、リンパ節の周辺に位置する髄膜下および髄質洞のマクロファージはがん抗原の捕捉に関与している。CD169(Sialoadhesin、Siglec-1)はマクロファージに発現する分子で、細胞間接着に機能することが知られている。また、リンパ節内のCD169陽性マクロファージの数は、腫瘍組織に浸潤するCD8陽性リンパ球の数およびがん患者の良好な予後と相関することが報告されている。ゆえに、本研究では天然化合物であるナリンジンのCD169陽性マクロファージの活性化を介した抗腫瘍作用を評価することを目的とする。

【方法】

近年、ナリンジンがヒト単球由来マクロファージにおいてCD169発現を誘導する天然化合物であることを同定しため、本研究ではナリンジンがリンパ節のCD169陽性マクロファージを誘導することで腫瘍進行を抑制するかどうかを、腫瘍移植マウスモデル(膀胱がん細胞株MB49および肺がん細胞株LLC移植モデル)を用いて評価した。

【結果と考察】

ナリンジンの投与によりリンパ節のCD169発現が誘導され、膀胱がん細胞株MB49および肺がん細胞株LLCを移植したマウスの腫瘍重量が顕著に減少した。さらに、腫瘍組織に浸潤するCD8陽性リンパ球の数も対照群(非投与群)に比べて顕著に増加した。一方、ナリンジンの投与はヌードマウスおよびCD169-DTRマウスの腫瘍進行には影響を及ぼさなかったため、ナリンジンはCD169陽性マクロファージとリンパ球の細胞間相互作用を調節することによって腫瘍進展を抑制することが明らかとなった。ゆえに、ナリンジンはリンパ節のCD169陽性マクロファージを活性化することで抗腫瘍作用を発揮することを明らかにした。

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光山 統泰

国立研究開発法人産業技術総合研究所・人工知能研究センター

オルガノイド継代培養の自動化

光山統泰1,下野晴子1,堀之内貴明1,秦喜久美1,八尾良司2

1国立研究開発法人産業技術総合研究所・人工知能研究センター

2公益財団法人がん研究会・がん研究所 

 

【背景】

患者由来のオルガノイド(Patient-Derived Organoids: PDOs)は、個別化医療の実現や疾患のメカニズム解明において重要な役割を果たすことが期待されている。しかし大量のPDOs試料を安定して供給し、高い再現性を維持するのは容易ではない。特に、PDOsの培養技術は高度で習得が難しく、技術者の育成がボトルネックとなっている。限られた技術者では供給できるPDOsの量に限界がある。

【目的】

実験自動化技術を活用してPDOs培養に伴う課題を解決することを目的としている。コンパクトで廉価な自動化技術を開発することで、多くの研究室で培養の課題を解決できるようにすることを将来の目標としている。

【方法】

継代培養の手技を自動分注機に実装することで自動化する。手技の要点を播種、回収、破砕として、熟練した技術者からのノウハウをOpentrons OT-2に実装した。OT-2は装置のハードウェアとソフトウェアがオープンソースとして公開されているのが特徴で、今回のように、装置の改造を伴うような開発には最適である。実際、回収手技の実装では、通常のOT-2の動作では十分な結果が得られないことから、OT-2に独自の改造を施した。具体的な改造内容は、分注ピペットの軌道を精密に制御し、マイクロプレートのウェル底面にピペットチップ先端をこすりつける動作をさせるプログラムの開発、マイクロプレートを自動で傾斜させてオルガノイドの回収効率を向上させる装置の開発、ピペットチップ先端からマイクロプレートへの圧力を最適化する治具の開発、分注ヘッドの加速度の最適化、ピペットチップの改良を行った。なおプログラムの開発および装置の開発はすべて研究室内で行っている。

【結果と考察】

自動化の評価はマウス腸オルガノイドおよびマトリゲルを用いて行った。破砕工程では、OT-2の分注ヘッドを用いてマウス腸オルガノイドを十分に細かく破砕できることを確認した。回収工程では、マトリゲルを用いてウェル底のマトリゲルを効果的に剥がし、効率よく吸引できることを確認した。播種工程では、マトリゲルをウェルの中心に正確に吐出できることを確認した。今後は、PDOs培養の現場にこれらの技術を橋渡しして、技術の高度化とさらなる検証を進める予定である。

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森脇 一将

大阪医科薬科大学医学部 薬理学

Intercellular crosstalk between patient-derived parotid gland cancer cells and CAFs via the BDNF/TRKB pathway

Kazumasa Moriwaki1, Yusuke Ayani2, Hiroko Kuwabara3, Tetsuya Terada2, Masaaki Higashino2, Ryo Kawata2, Shin-Ichi Haginomori2.

1Dept. Pharmacol. / 2Dept. Otolaryngol Head Neck Surg. / 3Dept. Phathol. Fac. Med., Osaka Med. Pharmaceut. Univ. 

 

The molecular features of parotid gland cancer (PGC) are not fully understood enough to develop an effective drug therapy because of the rarity. Given the poor prognosis of many human cancers in which TRKB is highly expressed, we investigated the involvement of the BDNF/TRKB pathway in PGC tissue using clinical specimens and observed high expressions of TRKB and BDNF in both tumor cells and stromal cells such as cancer-associated fibroblasts (CAFs). Therefore, to obtain more detail information of BDNF/TRKB signaling in PGC, we established primary co-culture system of patient-derived PGC cells and CAFs. In the culture system, PGC cells co-cultured with CAFs exhibited significant upregulation of BDNF and epithelial-mesenchymal transition (EMT). Similar results were observed in PGC cells treated with conditioned medium (CM) from co-culture of PGC cells and CAFs. TRK inhibitors suppressed BDNF- or CM-induced Snail upregulation and cell migration in PGC cells. Importantly, immunohistochemical and clinicopathological analyses of tumors from the patients with PGC revealed that TRKB expression levels in PGC cells were significantly correlated with aggressive features, including vascular invasion, nodal metastasis, and poor prognosis. Collectively, these data suggest that the BDNF/TRKB pathway regulates PGC cell aggressiveness via cross-talk with CAFs and is a potential therapeutic target for PGC harboring invasive and metastatic features.

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山本 晴

東京農工大学獣医薬理学研究室

ヒトの転移性乳がんの進行とLMTK3/FADS2シグナル伝達との関与

 

 【目的】ヒト乳がん(HBC)は世界中の女性のがん関連死の原因となっている。これまでの研究では、HBCの貴重な前臨床トランスレーショナルモデルとしてネコ乳がん(CBC)オルガノイド培養モデルを確立し、LMTK3/FADS2シグナル伝達が腫瘍の進行と転移に関連していることを明らかにした。本研究では、HBCの発生、浸潤、進行におけるLMTK3 /FADS2シグナル伝達の役割を分析し検討を行った。

【方法】HBC組織ならびに正常乳腺組織におけるLMTK3・FADS2の発現を比較した。そしてHBC細胞株であるMCF7・MDAMB231を用いて、LMTK3阻害剤であるC28やsiRNAを用いた遺伝子ノックダウン実験を行い、LMTK3・FADS2とBCとの関連性について検討した。さらにHBC患者由来オルガノイドを作製し、C28の感受性について解析するとともに、オンラインデータベースを利用して、LMTK3/FADS2発現とHBC患者の生存期間やステージなどとの関連性について比較した。

【結果と考察】LMTK3 および FADS2は、正常の乳腺組織よりも HBC 組織において高い発現を示した。 C28 は、MCF7 細胞の生存率を濃度依存的に阻害したが、MDAMB231 細胞の生存率は部分的な阻害となった。MCF7/MDAMB231細胞におけるCyclin D1、Cyclin E1、および p21 の発現は、C28処置によって変化しており、さらにLMTK3 または FADS2 をノックダウンすると、CF7/MDAMB231細胞の増殖および浸潤能が大幅に低下し、MCF7 細胞ではアポトーシスが誘導された。 また、HBC オルガノイド株では、C28 が濃度依存的にその生存率を阻害した。また、LMTK3およびFADS2発現が共に高いHBC患者では、発現が低い症例よりも生存期間が有意に短くなることが示された。これらの結果により、CBCにおいて腫瘍の悪性挙動との関連性が示唆されてきたLMTK3/FADS2シグナル伝達について、HBCにおいても腫瘍の進展との関与が示され、ヒト転移性乳がんの新規治療標的として有用であることが示唆された。ヒト転移性 BC における創薬研究や新規治療薬の開発などへの応用が期待される。

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